第7話 最後の手紙

お姉さんは ボードの隅に固めて張られている人気のなさそうな依頼書をいくつか持ってくるとテーブルの前に並べた。

それにしても モコ助たちは大人しいけどどこかへ遊びにいったのかな。

自信のありそうなお姉さんの表情、椅子に座って説明を始めてくれたけど持ってきてくれたのは 「街周辺の除草」「花壇の除草」「墓地の除草」などの清掃関係の依頼書だった。


「それでね 底なしの胃袋を持っているなら 3日かかる草取りを1日でこなすことも可能じゃないかしら?」と人気のない仕事でもモコ助たちの力を使えば簡単にしかも大量に仕事をこなすことが出来るとスキルの使い道を考えてくれたようだった。

ちなみに 一番報酬が高いのは 「墓地の除草」の依頼なんだな。

それはそうか、誰もやる人がいないのだろう

でも 「墓地の除草」に気付いたお姉さんは「墓地は違うの」といって持ってきた依頼書を裏返しにしてしまった。

首を横に振りながら「墓地が荒れすぎてしまってアンデットが出るのよ。だからこの依頼書は作り直しになったの」という話だった。

実は 紙とペンが欲しかったので

「モコ助たちにそんな使い道があるとは思いもしませんでした。そのうち試してみようと思います。それとその捨ててしまう墓地の依頼書ですがいただけませんか?あと ペンをお借りしてもいいでしょうか?」といって借りるとお姉さんは「ええ 構いませんよ」とペンと依頼書を渡してくれた。


依頼書の裏にペンで短い文字を書いているとお姉さんの座っているカウンターの下でモコ助たちの声が聞こえる。

プイプイ プイプイ


「あら? テーブルの下のお弁当箱から声がするわ 何かしら?」

スカートを抑えてかがむお姉さんはお弁当箱を取り出すと 

そこにはお弁当のレタスを引っ張り出して食べているモコ助たちの姿があった。


バリバリ バリバリ


「ごめんなさい。」

「いいのよ レタスはいつも食べないから。それよりもレタスだけを上手に引き抜いたわね。可愛い。ふふふ」


プイプイ


お姉さんは許してくれた。

愛くるしい丸みを帯びた体系のモルモットを誰も憎むことなんてできないかもしれない。


天の声「レベルが上がりました」


うわ 何だろう?耳の奥で誰かの声がした。

お姉さんは首をかしげて「はて? 何も聞こえませんよ」と不思議そうにしているし

モコ助たちの声でもなさそうだ。

「レベルが上がりました」と聞こえたと話すとそれは「天の声」というものだと教えてくれた。

天の声は勇者様たちにしか聞こえない特別な声らしく 普通では知ることが出来ない力の限界を突破した瞬間を教えてくれるのだという。もしかしたら ご先祖様と勇者様の間で何かがあったのかもしれない。

つまりは 「レタスで 限界突破できたってこと?」と微笑むと

「どうやら そのようですね」

「プイプイ」

と優しく微笑みを返して答えてくれた。

帰りに「ありがとう リーシャさん」とお礼を言うと受付のお姉さんのリーシャさんは「覚えていてくれたんだ」といって涙を流して見送りをしてくれた。


次に向かったのはジェニーの家。

頭がボーっとしていてはっきりした記憶は残っていないけど 

ジェニーに「助けて」と言われたような気がしていて 幻聴じゃないと信じたい。

ドアをノックすると酔っぱらった父親が出てきたので「あの ジェニーはいますか?」と聞いたけど

頭を掻きむしりながら「トシユキか? だけど 会わせるわけがないだろう。そんなこともわからないのか?」と社会の常識を諭そうとしてきた。

だけど 引き下がるつもりはないしジェニーの父親なんだから聞かなきゃいけない事があって

「ジェニーを俺に金貨2枚で売ってください。お願いします」と頭を下げてお願いをしてみた。


声が少し 大きすぎたかな?

血相を変えたのはジェニーの父親で 酒場でポロリと話を漏らしてしまった事が噂になっていることを今頃になって知ったようだ。


「しー! 声が大きいぞ。それは秘密の話だ・・・まあいい。モルモットしか召喚できないお前に娘を・・・だろ?せっかく ドラゴンでも召喚するんじゃないかって期待をしていたのに、聖騎士様との話を進めておけばよかったよ。とほほ」


「そうですか?では せめて手紙だけでも渡していただけませんか?それから俺は街を出ていこうと思っています。こちらへ立ち寄る際にバザーで購入したお酒なのですが お世話になったお礼に受け取ってください」とお酒に添えて手紙を渡すとお酒の中毒で震えた手を伸ばしてきて「そうか 酒か?よしよし。最後の頼みだ。娘も世話になった事だし引き受けてやるよ ひっく・・」と受け取って中へ入っていった。

手紙を渡すことが出来たし帰ろうと家から少し離れたところで ジェニーの家の方を振り返ると窓にジェニーの姿があった。

俺は 手を振ってみたけどジェニーは寝起きのような顔だし奇麗な髪もぼさぼさで

魂が抜けてしまったかのようにボーっとこちらを眺めていた。

俺が15歳になるまで ずっと我慢していてくれたのにこれからは家の中まで鎧を着ているような男と一緒に暮らさなくちゃいけないと 失望しているのかもしれない。


・・・。


ほ~ら レタスだよ!

プイプイ 

パクパク ムシャムシャ・・


天の声「レベルが上がりました」


はは はははは! 面白いな。本当にレタスなんかでレベルの限界を突破できるのかよ?

モコ助たちも レベルが上がると嬉しそうに ポップコーンジャンプをするんだな

わかるのか?

プイプイ


そうかそうか。


ギルドカードも手に入れたし、ジェニーに手紙も渡した。

後は家に帰って麻の袋と ロープと包丁を用意するだけだ。


それではやるぞ。 レタスぅ~ ボーナスチャンスだ!


プイプイプイプイ


俺はすべてのレタスを道端にばら撒いた。


プイプイ 

パクパク ムシャムシャ・・


天の声「レベルが上がりました」


はは はははは! 面白過ぎるだろ。

家の畑の野菜が すべて食べられてしまうかと思うとワクワクするよ。

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