第8話 やはり咲子の仕業だった

 私のカンは当たっていた。やはり咲子の仕業だったに違いない。

 翌日、私は朝の掃除のとき、調理台の前にマットを敷いた。

 すると即座に、咲子がマットを1mほどずらし始めたのだ。

「なにか意味あること?」と聞くと

 咲子はきょとんとした顔で、上目遣いで

「あのう、すべる?」などという始末である。

 足がすべり、料理を落とすことがわかっている。

 それならなぜ、マットの位置を1mもずらすなどという大仰なことをしでかすのだろうか?

 咲子はやはり、発達障害なのだろうか?

 そして、そんな咲子を私に養育させようとした店長は、私を憂鬱にさせ、私の人生を灰色に染め変えるなのだろうか?

 私は、言うことも聞かないし、常識はずれで仕事の足を引っ張ることばかりする咲子に灰色の未来を感じ、要注意人物ならぬ危険人物として扱うことにした。

 その気持ちが咲子に伝わったのだろうか?


 私は、咲子を徐々に避けるようになった。

 これ以上、咲子の故意の足引っ張りの犠牲になるのはもう真っ平御免である。

 咲子は人の注意など聞く気もないし、いや聞く能力がないのだろうか?

 咲子と一緒にいると、足を引っ張られる結果となり、私までまっとうな仕事が出来なくなってしまう。

 しかし、咲子はそのような事実を理解してはいなかったが、私が咲子に対して怒っているという気配は察しているようだった。

 とぼけたような声で「あのう、私のことが嫌いですか?」

 悪気はなく、自分だけが正しいと勘違いしているのだろうか?


 ある日、咲子は無断欠勤をした。

 店長から「今度、無断欠勤したら解雇だぞ。なぜ電話一本かけてこなかったんだ」

 なぜだろう。あの馴れ馴れしい、要らんことしー(不要なことばかりして、人の足を引っ張る)の咲子が、電話一本かけてこないとは。

 かけてこられない事情でもあったのだろうか。


 噂によると、咲子は東京にタレント志望の彼氏がいて、無名プロダクションに所属しているが、そのプロダクションは全員元大手芸能事務所ジャーニーJRのメンバーだ

ったという。

 ジャーニーJRというと、一万ほどいるジャーニーズスターのバックダンサーであり、一万人近く在籍しているという。

 そりゃあ、辞めていくメンバーがいても不思議はなかろう。しかしなかには、反町隆〇や故 桜塚や〇くんのように、辞めてからスターになった人もいるが・・・


 無名プロダクションのなかには、所属タレントに多額の違約金や弁償代を払わせるところも多いという。

 たとえば、一度仕事をキャンセルするごとに二百万、退社するときは売り出しの費用、衣装代も含めなんと二千万円の違約金や弁償代を払わせるプロダクションもあり、払えないと断ると、親に請求にいくぞなどと脅したあげく、男性向けのAVに出演させるところもあるという。

 ひょっとして、咲子の彼氏もそのパターンなのだろうか?


 結局、咲子は次週も無断欠勤し、退店することになった。

 私は、発達障害のことは医学的にはわからないが、咲子のように言葉遣いは誰に対してもタメ口、人の注意は全く聞かず、マットをずらすなど常識外れのことを平気で

やらかした挙句、店側に迷惑をかけてもケロリとしている。そんな人も発達障害と見なされるのだろうか?


 しかし、それでも店長のように、そういった困ったちゃんを雇い、私が養育をするといった善意の人ばかりならともかく、世の中はそういった人だけで成り立っているわけではない。

 一見、正義の味方のような白いマントの仮面を被り、その内側には人を傷つけようと待ち構えているドス黒い悪意の人間は多く存在している。

 一見、白いマントの仮面を被っているので、遠目には正義の善人に見えるが、やはり見る人がみると、どす黒い悪意、または殺意を秘めているというは、世の中にはびこり、まさに白いカラスが飛ぶー本来は真っ黒なカラスが善人のフリをして、世の中を飛び回っているーの世界である。


 

 


 

 

 

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