第6話 やたら馴れ馴れしい空回り筋違い女

 店長から新しく紹介された女性は、今度は二十五歳の一見童顔のアイドル顔の女性だった。

 店長は私にささやいた。

「彼女はユニットアイドル崩れで、やたら人に、特に男性に馴れ馴れしく媚びようとするが、根は悪党ではないんだ。ちょっと抜けたところが多いけど、指導してやってほしい」

「ユニットアイドル崩れというと、地下アイドルなどでいわゆるテレビに出演することなく、陽の目を見ないまま消えて行ったユニットアイドルか、それともユニットのなかでまわりについていけなくなって脱退したアイドルもどきかどちらかですね」

 店長は答えた。

「彼女の場合、そのどちらにも当てはまるよ。彼女はまあ、周りと合わせることの苦手な人で、いつもやることは空回りなんだ。

 あっ、彼女の名は咲子。悪気はないんだけどね、やることなすことが、結局失敗に終わるといった人なんだけど、ご指導よろしくお願いします」

 ということは、別の言い方をすれば自己中心で、社会性のない偏った女性というこ

とだろう。


 店長の紹介で入店してきた咲子は、いくらアイドル崩れといっても、そこは腐っても鯛の如く腐ってもアイドル。

 童顔でまあまあスタイルもいいが、やはり頬とお腹のポチャ気味は隠せない。

 しかし、仕事の飲み込みは早いというほどでもないが、まあ通常のスピードであるが、あまり敬語を使おうとはしない。

 入店して三日目には、咲子は男性に馴れ馴れしい態度をとるようになった。

「店長、このビールケース運んで」

 他のバイトは皆、眉をひそめた。

「いくら、力仕事でも店長を使うなんて」

 しかし、咲子はおかまいなしである。

「いいじゃん。店長は私のダーリンなんだから」

 なに言ってんだ。店長は家庭持ちである。まったく咲子はお調子者である。

 それとも無名とはいえ、元アイドルだったという自惚れがあるのだろうか?


 もちろん店長は歯牙にもかけなかったが、咲子は今度は野田チーフに媚び始めた。

 本来ならばチーフと呼ぶところを、やたら野田さん野田さんと友人みたいに呼び始

め、まとわりついていく。

 さすがに仕事中は手を出せないので、野田チーフの休憩時間に執拗にまとわりつき、野田チーフが話しかけるなと制止しているのにも関わらず、そんなことは一向に取り合わず、なんと野田チーフの着替え中の部屋まで入って行くのである。

「いいじゃん、野田さんのパンツ姿なんて見慣れてるわ」と平気な顔。

ということは、咲子は男性に慣れているのだろうか?

 

 咲子の男好きは、ますますエスカレートしてきた。

 前かがみになり、バイトが胸が見えるよと注意すると、わざと前かがみになり

「私のバスト、拝ましてやろうか」などと笑顔で言う始末である。


 この咲子という女は、何物なんだろう。もしかして、ハニートラップの体験でもあるのであろうか? 

 ひょっとして、お呼びのかからない無名のアイドル時代、有名タレントにハニートラップを仕掛けたりしていくばくかの小遣いをもらうなんて話は聞いたことがあるが、そのタイプなのだろうか?

 私は急に、咲子が単純な男好き女から、不可解な謎の人物に思えてきた。


 

 


 


 

 

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