瓢箪から駒

「我々は渕上先生から依頼を受けた専門家だ! 君は2年2組の彦塚愛理さんで間違いないか⁉︎」


 忠孝は朗々とした調子でそう呼びかけた。


 ふらふらと歩いていた足の生えた卵のようなそれは、ピタリ、と動きを止めた。


「いけない下がって‼︎」

 タエは忠孝の襟首を掴んで無理矢理に後ろに下げると

「おんきりきりばさらばさり!ぶりつまんだまんだうんぱった‼︎」

 胸元で印を切りながら早口に真言を唱え術を完成させた。

 不可視の壁が二人を囲んだ次の瞬間、足付き卵から何かが飛んだ。


 それは細長い、かどの丸い白い板のようなもので、塊本体から剥がれるように捲れると矢継ぎ早に二人に向かって飛び次々と襲い掛かった。


「やるっての⁉︎ ならこっちも容赦はしないよ‼︎」

 しゃんっ、とタエの左手の数珠が鳴った。

「おん! ばさらゆた‼︎」

 それはタエ自身の法力を活性化させ、対魔の力を増幅させる真言だった。彼女は自分の体内を巡る陽の気脈の経路を右手の先から手にした三鈷杵までに拡張した。三鈷杵は彼女の一部となり月の光を跳ね返して鈍く輝いた。

 駆け出したタエは左手に集中させた結界の法力で敵の攻撃を弾き逸らしながら、滅魔の法力を三鈷杵に集中させた。

「待ちたまえ!!!」

 タエが卵人間に一撃を叩き込もうとした瞬間、世界がグルリッと回転して卵人間が視界から消えた。

 いや。回転したのは、させられたのは彼女の方だった。忠孝だ。

「なにすんの⁉︎」

 タエが慌てて振り返ると卵人間は逆さまに回転させられており、地面に転がって足をバタバタさせていた。

 忠孝は諭すように言った。

「彼女を殺す気か? 良く見ろ。これは彼女自身の異能。その暴走だ」

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