夜目遠目傘の内

「あなたは帰りなさい。人一人丸々隠すような怪異なら、ノーマル同然のあなたは本当に危険かもしれない」

 タエは追いついて来た忠孝に警告した。


「ほう。君はもうこの事件の全容が掴めていると?」

「あなたは知らないでしょうけれど」

 タエは旧校舎解体の工事現場の手前で立ち止まると、バッグを下ろし、中から数珠と三鈷杵と呼ばれる法具を取り出した。

「ここは旧跡の一つ。祖霊と呼ばれる長い年月を経た死者の魂の塊を慰めるための祠があった場所」

「つまり?」

「例えばあなたが大僧正クラスの霊能者だったとしても、個人で除霊や調伏ができるような状況じゃないかもしれないってことよ」

「流石だ。指を咥えて看板だけ継いだわけじゃあないってことか」

「当然よ。私の未熟は依頼人の不利益に繋がる。勉強はしているわ。今回は緊急性が高いから一人で来たけど、本来なら組合に連絡して合同で当たる事案」

「僕は消えた女子高生が気になるね」

「それは……私だって気になってるわよ」

「そうじゃない。彼女の名前だ。彦塚愛理。何か気付かないか?」

「ヒコヅカ・アイリ……」

 タエは記憶を探った。

「分からない。有名人の名前とか?」

「いや。もういい」

 忠孝は頭の動きでを見るようにタエに促した。

「本人に直接聞こう」

 

 暗闇にぼんやりと浮かび上がるようにして立つそれは、ほぼ球体の大きな白い塊から、細い女性の足が二本生えた何かだった。

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