藪を突いて蛇を出す

「彼女の……異能?」


「そうだ。彦塚。聴いたことはないか? 代々『狒狐憑ひこつき』の家系の彦塚だ」

「ヒコツキの彦塚……ああ! 白き棒板の如き式を織り数多あまたはべらす密術の一族……でも、確か……」

「そう。彦塚は岡山に本家を置く家柄で、今でも当主は、かの地で存命の筈だ」

「じゃあこの子は」

「分家の血筋の隔世遺伝じゃないかな。本人に適正があったのかもしれない。狒狐ひこは自ら意思を持つ白い板状の守護霊で、複数が同時に術者の盾や武器となることもある、と聞くが──これだけの数を同時に展開して操作するとは。いい師匠を付ければ強力な祓い屋になるだろう」

「もしかすると、彼女が行方不明になったのは」

 忠孝は溜息をついた。

「異能持ちの義務感から、一人で解決しようとしたんだろうな。自分の身近な場所で起こる怪異のトラブルを。若い異能持ちがやりがちな失敗だ。僕も憶えがある」

「……メリーゴーランドでも直したの?」

「鎮静の札を。三等級でいい」

「偉そうに指図しないでよね」

 タエはポーチから言われた霊符を出して忠孝に渡した。

「祓へ給ひ清め給へと白すことを聞こし召せと恐み恐みも白す……」

 忠孝が流暢に発動の祝詞を上申すると札はその効果を発揮し、地面に転がった大きな白い球体は光の粒子に解けて、中からセーラー服姿の女子高生を吐き出した。


「気を失っているだけのようだ」

「良かった。に、しても守護霊が暴走するなんて」

「免疫の過剰反応……アレルギーみたいなものさ。彼女が遭遇した怪異がとても強力だったのだろう。狒狐たちは彼女を護る為にストレートに防御に働いた」

「とにかく、最悪の事態だけは避けられたみたいね」

「どうかな」

「どういう意味?」

「どうやら僕らはまんまと罠に落ちたみたいだ。彦塚愛理というエサに釣られて」

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