秘密結社、三人団 -神の国計画-

山口遊子

第1話 俺は帰ってきた(I have returned)1


『闇の大神殿』(注1)の落成式で、主催者発表20万の信徒たちの礼拝を受けた俺はあまりの歓喜に気を失ってしまった。


 俺は一度も「必ず帰ってくる(I shallアイシャル returnリターン)」などと言った覚えはないが、気付けば現代日本?それも東京に帰ってきていた。


 ただ、真昼の月が真上・・にあったことと、その月が長四角(注2)だったことには驚いた。それくらいのことは今までの数々のでたらめな状況を考えれば些細なことだ。現に道行く連中も俺たち3人(注3)のことをジロジロ見ているが、空の月は気にしていない。たまたま俺がゾンビになってこの世界からいなくなっている間に、月が長四角になったのだろう。


 俺たちを見ている通行人の服装や気温やそこらから言って今は春?のような気がする。


 そんなことより、将来コスプレイヤーとしてデビューしたいわけではないので、今着ているコスプレ衣装ローブすがたを何とかしないとこのままではいいさらし者だ。アズランの肩にとまっているフェアを道行く人は飾り物と思ってくれているようなのでこれで済んでいるが、本当に生きていると分かれば大騒動間違いなしだ。


 こら! 勝手にスマホで俺たちをるんじゃない!



 ビルに挟まれた自動車道の脇の歩道で未だに呆けているトルシェとアズランに、


「ここにいても仕方がないからどこかよそにいこう。とはいえ、先立つものが何もない」


「ダークンさん、ここはいったいどこなんでしょう? 夢を見てるのかな?」


「ダークンさん、私たちを見てる人たちの服装が奇妙なんですけど」


「夢でもなければ、着ている服もあれがここでは普通と思ってくれ。それと、ここは俺がゾンビになる前に住んでいた世界のようだ」


「ここがダークンさんの故郷だったんですか?」


「俺が覚えている俺の世界と若干のズレがあるようだが、おそらくそうだと思う。それよりさっきも言ったがここで通用する金がない。俺はこの世界では何年も前に死んだことになっているはずだし、俺の住んでいた家も貯金も何もかも無くなっていると思う」


「無くなっちゃったものは諦めて。金貨おかねならたくさんキューブ(注4)の中あるからまた必要なものがあれば買えばいいじゃないですか」


「残念だが、今までのかねはここでは使えないんだ。どこかで換金くらいはできると思うがな。移動するにも現金かねが要るから手っ取り早く反社勢力の構成員でも見つけてそいつによーくお話しして寄付してもらおう」


「反社勢力というのは?」


「悪いヤツらという意味の、この世界での言い回しだ。だからと言って簡単に殺さないでくれよ、後が相当面倒になるからな」


「はーい。殺さなければいいならそれ相応に」「手足を切り取って身動きできなくするくらいでめておきます」


「痛めつけるにしても血がたくさん出るようなのは控えてくれ。跡が残ると厄介なんだ。殺しちゃったらコロに食べさせてしまえば何とかなるが、周りに人が大勢いるとマズいからそこは注意してくれ。

 ここに立ってても仕方ないから、そろそろお仕事・・・を始めるか。

 バカを釣るにはもう少し暗がりで狭い道のほうが釣りやすいから、そこの脇道に入ってみようぜ」


「はーい」「はい」


 思惑通りと言えば思惑通りだが、ビルとビルとの間の小路こみちにも人は入ってくるようで、俺を先頭に3人縦に並んで小路を歩いていたら、前の方に俺の知らない言葉で何か言っている3人組の男が立っているのが見えた。そいつらの足元にはどうも人が倒れているようだ。その倒れた人?を3人組がかりで蹴りつけている。


 倒れているのが既に死んでいるようなら面倒だが、手足がわずかに動いているようなのでまだ生きてはいるようだ。


 俺たちは正義の味方ではないが、1対3で一人が痛めつけられているところを見るとやはり、3をどうにかしてやろうという気にもなる。


 俺たちが近づいていることにやっと気づいた3人組が蹴りつけるのを止めて、俺たちの方を睨みつけてきた。



注1:『闇の大神殿』

主人公ダークンが信者に作らせた二礼二拍手一礼教の大神殿。もちろんまつられているのは『常闇とこやみの女神』たるダークンである。


注2:月が長四角

拙作宇宙SF『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』に登場する長さ3.6キロメートル、1辺360メートルの正六角柱型をした航宙艦。国会議事堂上空100キロに滞空している。本作では特に関係ないと思います。


注3:3人

『常闇の女神』ダークンのほか、『闇の右手』トルシェ、『闇の左手』アズラン。トルシェとアズランはともに半神である。二人とも小柄で、特にアズランは小柄である。二人とも実年齢はともかく見た目はそうとうな美少女。アズランの肩の上には6枚羽根のフェアという名のフェアリーが座っている。フェアは正確にはフェアリークイーン・ポイズナーという変異種である。また、ダークンの腰回りにはコロという名前のスライムがベルトに擬態している。コロは、スライム種の最上位種ブラック・グラトニーで、あらゆるものを捕食すことができるほか、凶悪な毒性(腐食、腐敗、即死など)を持った瘴気をまき散らすことができる。


注4:キューブ

正式名称は収納キューブ。いわゆるアイテムボックス的アイテム。3人はこれを所持している。特にトルシェはこれをたくさん所持しており、その中に金貨や貴金属はもちろん、金目の物を大量に保有している。



[あとがき]

本作は異世界ダーク風ファンタジー『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』、『常闇(とこやみ)の女神 -目指せ、俺の大神殿!』の続編にあたりますが、現代ファンタジーですので主人公たち以外ほとんど関連はありません。主人公は一貫して一人称『俺』です。初見の方は何だか分からないようなものも頻出しますが、注として簡単な説明を付けています。いずれにせよ展開にはさほど影響はないので気にしないでください。


『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』のあらすじ:

いろいろあって異世界の凶悪迷宮でゾンビとして転生した主人公が仲間を得、ついに進化の頂点を極める。そういった物語です。


『常闇(とこやみ)の女神 -目指せ、俺の大神殿!』のあらすじ:

進化の頂点を極めた主人公が仲間と共に勧善せずに懲悪しつつ信者を増やし、下は商会から上は国までいろいろ叩き潰したり乗っとったりした挙句、大神殿を建立する物語です。


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