第2話 俺は帰ってきた(I have returned)2


 手元不如意てもとふにょいにつき何かアルバイトできるような案件が転がっていないかと思い、俺たちはビルとビルとの間の小路こみちに入っていったら、期待していたとおりの反社勢力ソレらしい3人組の男たちがいた。


「オイ、オマエタチ、ココデノコトハ、見ナカッタコトニシテ、Uユーターンシテアッチヘイケ!」


 中の一人が片言の日本語でそう凄んできた。


 もちろん俺たちにそんなおどしは効かないのでそのままそいつらのいる方向に歩いていく。3人組が蹴りつけていたのは若い男だった。顔から血を流して手足があらぬ方を向いていたが生きてはいるようだ。


 さっき俺たちに向かって片言の日本語で警告した男が3人組のリーダーらしく、残りの二人に向かって、おそらく大陸語で何か指図した。


 指図された2人の男が俺たちの方に近づいてくる。この2人の着ている服はそれほど高級そうには見えないので大した現金きふきんは期待できそうにない。後ろで偉そうにしているリーダーに期待するとしよう。


 こっちも後ろの二人が気になって振り返ったら、トルシェが満面の笑みを浮かべて俺を見ている。アズランも俺の方を期待するように見ている。通りには俺たち3人と、ラシイ3人組の他、地面に伸びている若い男だけだ。


 俺が後ろを振り向いたのをスキと思ったのか、それとも俺が逃げるとでも思ったのか2人組が一気に俺に向かって踏み込んできた。


 俺は向き直りざまに右手で片側の男が伸ばしてきた手を払ったら、そいつの手が良い音を立てて変な方向に折れ曲がってしまった。肘の関節が壊れたようで大騒ぎでわめき始めた。もう一人は俺に向かってこぶしを固めて殴りかかってきた。


 俺もこぶしを固めて男の緩いパンチに合わせてやったら、そいつのこぶしは良い具合に粉砕骨折して白い骨が何本か突き出て血も吹き出てきた。


 こぶしがいい具合に壊れた男は自分のこぶしを一度見て、口から泡を吹いて気絶してしまった。あまり血は出したくなかったが、3人組に袋叩きにあっていた目の前の虫の息の男の周りは血だまりができているので少しくらいなら平気だろう。


 肘の関節が壊れうずくまり大騒ぎしている男がうるさいので、そいつを回し蹴りで軽く蹴飛ばしたら、ビルの壁に顔から突っ込んで鈍い音と一緒におとなしくなってくれた。


 男たちの動きが遅いので手間取ったが、連中からすれば一瞬の出来事だったかもしれない。


「おい、そこで偉そうに突っ立てる兄ちゃん、相手を見てかかってこいよな」


 俺たちのことをただのコスプレイヤーと思ったのかもしれないが、世の中には常識では計り知れないコスプレイヤーがいることを知る機会に恵まれたことを幸運に思うがよい。


 残った男は俺のことをやっと脅威と感じたようで、懐に手を入れたと思ったら拳銃を取り出した。こいつらただもんじゃなかったようだ。


 拳銃の弾など怖くはないが、俺の一張羅コスプレいしょうに孔を空けられると嫌なので、


「コロ、あいつが手に持っている黒いのを食べてくれ」


 腰のベルトに擬態していたスライムのコロから極細の触手が伸びて、男の持っていた拳銃が一瞬のうちにきれいさっぱり無くなってしまった。男は手にしていたはずの拳銃が消えてしまい慌てている。


「あれれれれー? 拳銃が無くなっちゃうと自己主張できないのかなー? ほれほれ、丈夫な手足が付いているんだから、かかってきなさーい」


 俺が手招きしてやったら、覚悟を決めたか、こぶしを固めて俺に殴りかかってきた。このバカはそこで泡を吹いている男がどうして泡を吹いているのか理解していなかったようだ。


 こぶしを固めて殴りかかってくれば、こっちもお返しにこぶしを固めて返礼、いやこの場合は返戻へんれいか?。


 グシャ!


 さっきよりもそれっぽい音がした。男のこぶしは完全に崩れてしまった。こいつも自分のこぶしを見て目を見開いている。まだ、脳みそに痛みの信号が届いていないのかもしれない。


 痛みの信号が脳みそに届いて大騒ぎされるとうるさいので、回し蹴りでさっきの男の反対側のビルの壁に顔から叩きつけてやったら、そのまま壁に顔をくっつけて動かなくなった。顔のくっついた壁から血が下に垂れてきたので、手形ならぬ顔形が壁にできたかもしれない。


 俺は壁ペッタン男の後ろから衣服をまさぐり、札入れを見つけ出した。結構な金額が入っている。札入れと中から取り出したおさつをトルシェとアズランに見せて、


「こっちの革でできたのが財布で、この複雑な模様が描かれている紙切れがおさつと言ってこの国の現金かねになる。この国にはこのさつの他に金貨はないが何種類かの小銭こぜにがある。

 トルシェとアズランで残った二人から財布を見つけてお札を抜き取ってくれ。財布はいらないから捨てればいい」


「はーい」「はい」


 俺も財布を投げ捨てて現金さつだけローブのポケットに入れておいた。


 すぐに二人も俺がのした二人の男の衣服をまさぐって、


「あったー!」「ありました」


 そういって札入れを掲げたのだが、


「あれれ?」「からっぽ?」


 チンピラ二人は不景気だったようでどちらの財布にもお札は入っていなかったようだ。


 トルシェとアズランも財布を道に投げ捨ててしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る