決闘

……………………


 ──決闘



 作戦がスタートした。


 フェリクスは軍用四輪駆動車にひとりで乗り込み、取引場所に向かう。


 シャルロッテのことが心配だったが、今はどうすることもできない。


 指定された住所まで車を走らせる。情報によればそこはアマチュアパイロットたちが操縦を楽しむ飛行場がある場所だそうだった。だが、2年前に経営暗で運営会社が倒産し、そのまま放置されいてるとのことだ。


 人里離れた場所で、銃声がしたところで誰も目を覚ましたりはしないだろう場所だった。指定された時刻は朝の5時だ。アロイスは最後の朝日を拝ませながら、フェリクスを殺すつもりなのだろう。


 フェリクスは車を走らせ、飛行場の入り口に向かう。飛行場の入り口では、ドラッグカルテルの兵士と思しき男たちが待機していた。


「フェリクス・ファウスト捜査官だな。ボスがお待ちだ。行け」


「ああ」


 ボディチェックを受け、丸腰であることを確認されると、フェリクスは飛行場の方に通された。飛行場では管制塔に狙撃手の姿が見え、その周囲に兵士たちが展開している。


 そして、フェリクスは目的の人間を見つけた。


「よう。フェリクス・ファウスト捜査官。また会えてうれしい」


「クソ野郎」


 アロイス・フォン・ネテスハイムだ。


 傍には完全武装のスノーエルフの女がいる。


 アロイスにはドラッグカルテルのボスにありがちな入れ墨もゴールドアクセサリーもなし。立派なスーツを身に着けている姿からは、この男が世界最大のドラッグカルテルのボスであることを窺わせるものはなにもない。


 だが、この男こそがヴォルフ・カルテルという悪魔たちのボスなのだ。


「シャルロッテはどこだ?」


「ああ。忘れてた。連れてこい」


 そして、シャルロッテが引きずってこられ。滑走路に放り出される。


「シャルロッテ!」


「ちょっとドラッグを使いすぎてな。頭がパーになっている。だが、問題ないよな? どうせこうなるんだ」


 アロイスは魔導式拳銃を抜くとシャルロッテの頭を撃ち抜いた。


「貴様……!」


「お前だってマーヴェリックを殺しただろうが。クソ野郎。被害者面するなよ。お前のせいで大勢が死んだ。お前に正義なんてない。お前は俺の鑑写しだ。同じ、悪党なんだよ。分かったか?」


「ああ。そうか。そうだろうな」


 そこでヘリの音が響き、ガトリングガンの銃声が響く。


「だろうと思ったよ! こっちも準備してたんだ!」


 対空ミサイルが茂みから放たれヘリがテールローターをやられて墜落していく。それから次々にヘリと装甲車が押し寄せ、辺りは一瞬で戦場と化した。


「クソッタレ! 他はどうでもいい! フェリクスを殺せ!」


「分かってる」


 マリーが魔導式自動小銃の狙いをフェリクスに向け、引き金を引く。


 銃弾はフェリクスの肩を貫き、フェリクスはよろめく。


 そこでマリーたちにガトリングガンの狙いが定められてくる。


「マリー! 死体爆弾を使え!」


「了解」


 装甲車に向けて無数の戦闘服姿の死体が向かっていく。


 そしてそれらが装甲車に張り付くと爆発し、装甲車も大破炎上する。


「フェリクス・ファウスト。お前だけは許さない。私からマーヴェリックを奪ったお前だけは絶対に許さない」


 確かな殺意を込めてマリーが引き金を引く。


「フェリクス! 伏せろ!」


 エッカルトの声が響きフェリクスが伏せると同時に魔導式拳銃の発砲音が響いた。


 それから魔導式自動小銃の銃声が重なる。


 フェリクスが顔を上げたとき、そこには肩から血を流してるマリーがいた。


 そして、その反対には血の海に沈んでいるエッカルトが。


「フェリ、クス……。アロイスを逃がすな、よ……!」


 エッカルトが魔導式拳銃をフェリクスに滑らせて寄越す。


「死ね。フェリクス・ファウスト!」


「まだ死ねない!」


 フェリクスの放った銃弾がマリーの額を貫き、彼女はそのまま後ろに倒れる。


「エッカルト、エッカルト。しっかりしろ。おい!」


 エッカルトも死んでいた。ライフル弾は彼の腹部を貫き、致命傷を負わせていた。


「すまない、エッカルト。俺は俺の役割を果たす」


 フェリクスはエッカルトのタクティカルベストから新しいカートリッジを抜き取ると、それを装填してアロイスの後を追った。


 ここでアロイスを逃がせば、何もかもが無駄に終わる。それだけはダメだ。


 麻薬取締局の特殊作戦部隊や連邦捜査局の特殊作戦部隊、そして“国民連合”陸軍の特殊任務部隊STFデルタ分遣隊が現場を包囲し、周囲を捜索している。アロイスを探して。世界最大のドラッグカルテルのボスを探して。


「フェリクス・ファウスト!」


 突然怒号が響いたかと思うとフェリクスは腹部に衝撃が走るのを感じ、同時に怒号の方に向けて引き金を引いていた。


 フェリクスの視界にアロイスが見える。アロイスは腹部を押さえていた。フェリクスの放った一撃が命中したのだ。


 フェリクスはアロイスを追いかける。腹から出血しているという事実を無視して、アロイスの方向に向かい続ける。


 そして、追跡を続けるとアロイスが飛行場の傍にある樹木に寄りかかっていた。


「ああ。畜生。空が綺麗だ」


「アロイス・フォン・ネテスハイム。違法な薬物取引の容疑でお前を逮捕する」


「残念だが、それは無理だね。俺はここで死ぬんだ。1度目と同じように」


 アロイスはそう言って空を見上げる。


 アロイスは大量に出血していた。作戦は失敗だ。アロイスは死ぬ。ヴォルフゲート事件は闇に葬られる。誰の責任ももう追及されない。


「喜べよ、フェリクス・ファウスト特別捜査官……。あんたはまた俺に勝った……。あんたは天才だよ……。クソみたいな才能があるよ……。今度はあんたに勝てると思ったんだがな……」


「お前はクソ野郎だ」


「ああ……。俺はクソ野郎だ……。正真正銘のクソ野郎だ……。だが、あんたもそれに負けず劣らずのクソ野郎だ……」


 げぼっとアロイスが血を吐く。


「最期に言い残すことは?」


 フェリクスがふとそう尋ねる。


「そうだな……。くたばれ、クソ運命……」


 アロイスはそこで意識を失い倒れた。


 そして、フェリクスも地面に崩れ落ちる。


「こっちだ! 負傷者がいるぞ!」


「フェリクス・ファウスト特別捜査官! しっかり!」


 麻薬取締局の特殊作戦部隊が来るのが分かった。連邦捜査局の特殊作戦部隊が来るのが分かった。陸軍特殊任務部隊STFデルタ分遣隊が来るのが分かった。


 そして、何も分からなくなった。


 暗闇が視界を覆い、心臓の鼓動だけが聞こえる。


 自分がどこでどうなっているのかもわからないまま、フェリクスは意識を手放した。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る