最後の戦いに向けて
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──最後の戦いに向けて
フェリクスは確実にヴォルフ・カルテルの戦力を削いでいるのを実感していた。
コンテナ船での待ち伏せも成功だった。あれで精鋭の『ツェット』を待ち伏せし、何名かを仕留めた。あれだけの精鋭はそう簡単には準備できないだろう。
「この戦争はようやく俺たちの勝利で終わりそうだな」
エッカルトが上機嫌にそういう。
「まだ安心はできない。アロイスは捕まっていないんだ。奴がどこかに逃げたりでもすれば、その時は困ったことになる」
「戦略諜報省が奴を消すと思っているのか?」
「ああ。あのドラゴンは自分たちが生き延びるためならば、容赦なくアロイスを殺すだろう。そして、ヴォルフゲート事件は闇の中だ」
「それは確かに困るが、もうヨハンが十分証言したじゃないか」
「だが、前大統領とオーガスト・アントネスクは野放しだ」
「それはもう諦めろ。連中は大物だ。大人しく刑務所に入ることなんてない」
「諦められるか。連中のせいでスヴェンは死んだかもしれないんだぞ。連中のせいで大勢の犠牲者が出たのかもしれないんだぞ。どうあっても法の裁きを受けさせるべきだ。ドラッグマネーに触れた全員に」
「もうそれは連邦捜査局の管轄だよ、フェリクス。俺たちの仕事じゃない」
俺たちの仕事はドラッグを扱っている連中を刑務所に叩き込むことだとエッカルトは諭すようにそう言った。
「そうかもしれないな……。だが、追えるところまでは追う。アロイスには法の裁きを受けさせないといけない。そいつに関係した連中にも、だ」
「司法取引せずにか? 奴はきっと何も喋らないぞ」
フェリクスはアロイスと司法取引などしないと決めていた。
奴にはこれまでの罪をしっかりと償ってもらう、と。
そこで電話が鳴った。
「もしもし?」
『フェリクス・ファウスト捜査官。あんたの親しい友人からメッセージだ』
「誰だ?」
『あんたがクソみたいに熱心に追いかけている男さ』
「アロイス・フォン・ネテスハイム……!」
『大正解。ご褒美にいいものを聞かせてやろう』
電動ドリルの回転音が響き、女性の悲鳴が響く。
「シャルロッテかっ!?」
『またしても大正解。感心しないなあ、フェリクス・ファウスト捜査官。妻と別れておいて別の若い女と親しくているなんてな。あんたは酷い奴だよ。本当に酷い奴だ。豚の臓物だよ』
電話の向こうからは殺気だった声が響く。
『クソフェリクス・ファウスト捜査官。次の場所までひとりで来い。俺はあんたを殺す。あんたが来たら容赦なくあんたを殺す。それでもひとりで来い。言っておくが交渉の余地はない。それはあんたが叩き潰した。恨むなら自分を恨め』
そして、アロイスは住所を読み上げると電話を切った。
「クソッタレ!」
フェリクスが叫び声をあげて受話器を電話に下ろす。
「どうした? 何があった?」
「シャルロッテが拉致された。拉致されて連中の拷問を受けている。そして、連中は俺を殺すために指定された場所にひとりで来いと」
「罠だ。絶対に罠だ。行ったところでシャルロッテは助からない」
「分かっている。分かっているさ」
畜生と唸りながらフェリクスが室内を動き回る。
「こうなったら麻薬取締局の特殊作戦部隊の他に連邦捜査局の人質救出チーム、そして
「明確なドラッグ戦争における勝利だからな。だが、シャルロッテの身が危険だぞ」
「分かっている。だが、どうやっても彼女が助かる確率は低い。連中は既に彼女を殺している可能性すらある。アロイスを始末する機会を逃して、シャルロッテを死なせるのか。アロイスを殺して、シャルロッテを死なせるかだ」
「アロイスを殺してシャルロッテを助けるってのは無理か?」
「全く不可能じゃないだろうが、可能性としては非常い低い。だからこそ、特殊作戦部隊を掻き集めてドラッグカルテルの連中を迅速に制圧できるようにしておくんだ」
何かがアロイスの逆鱗触れた。思い当たるのは“連邦”海兵隊との合同作戦だ。
あそこで起きたことに激怒しているのか?
だがな、お前に殺された人間は数えきれないんだぞとフェリクスは思う。
「とにかく電話をかけまくるぞ。エッカルト。お前は本局を当たってくれ。俺は連邦捜査局のコネを当たってみる」
「
「大統領に電話する」
それからフェリクスたちはあちこちに電話をかけて、最終的に大統領に行きついた。
『では、ヴォルフ・カルテルのボスであるアロイス・フォン・ネテスハイムを拘束できるチャンスというわけだね?』
「その通りです、閣下。閣下がご命令くだされば、世界最大のドラッグカルテルのボスであるアロイス・フォン・ネテスハイムは拘束されます。少なくともこの世からはいなくなるでしょう」
『ふうむ。確かにドラッグとの戦争は終わらせなければならない。そのためには世界最大のドラッグカルテルを叩くことは必要とされるだろう』
イエスと言え。部隊を動員することに同意しろ。
『確実にアロイス・フォン・ネテスハイムを逮捕できるのだね? 今回もまた特殊作戦部隊に損害が出たら、いよいよ我が国はドラッグ戦争から手を引かなければならなくなる。確実だという保障を君からもらいたい』
「確実です、閣下。この上ないほど確実です」
『分かった。部隊の動員を許可する』
「ありがとうございます」
これで
「大統領はしくじったらあんたのせいにするぜ、フェリクス」
「だろうな。だが、どうでもいい。アロイスを始末したら、俺は麻薬取締局を辞める。もう俺も戦争に疲れた。10年間だぞ。10年間も戦い続けてきたんだぞ。いい加減に俺も自分を見つめ直すべきだ」
「そうかもしれないな。お前がいなくなると寂しくなるよ」
「あんたは良い相棒だったよ、エッカルト」
「ありがとよ」
それから48時間後。
密かに“連邦”海兵隊の基地に麻薬取締局の特殊作戦部隊、連邦捜査局の特殊作戦部隊、そして“国民連合”陸軍
「諸君らにはこれから高度な作戦に参加してもらう。作戦目的は世界最大のドラッグカルテルのボスであるアロイス・フォン・ネテスハイムの拘束だ」
場がざわめく。
「静粛に。割り当てを決める。敵は人質を取って脅迫を行っている。人質救出作戦も並行して行う。全ては奇襲だ。奇襲にかかっている。では、まずは麻薬取締局の──」
それぞれの特殊作戦部隊の配置が決まっていく。
いよいよフェリクスは最後の戦いに望もうとしていた。
アロイスとの10年に及ぶ戦いの決着をつけるのだ。
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