裏切者の辿る道
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──裏切者の辿る道
ジークベルトは次々と部下を失い、もはや人員が足りなくなっていた。
それでも彼にはフェリクスを殺すという強い意志があった。
どうあってもフェリクスを殺す。
「車爆弾だ。車爆弾をもう一度使う」
ジークベルトが述べる。
「爆薬を満載した車爆弾をホテルに突っ込ませ、遠隔操作で爆破する。もし、阻止されたら俺たちが乗り込んでフェリクスを殺す。絶対に殺す。今回は俺も参加する。今度こそ確実にフェリクスを殺してやる」
もはやジークベルトはなりふりを構っていない。
ただ、相手を殺す。それだけのために行動している。
「全員車に乗れ! 爆薬を積んだトラックも持ってこい!」
「了解!」
今回はジークベルト本人も参加する。彼は魔導式短機関銃を持ち、ピックアップトラックに乗り込む。
「作戦開始だ! 進め!」
自動車が一斉に出発していく。
「車爆弾を準備しろ」
そして、フェリクスの泊るホテル付近に来るとジークベルトがピックアップトラックを降りて命じる。ジークベルトたちは車を降り、車爆弾の準備を始める。アクセルを固定し、ハンドルを固定する。
「怪物を解き放て!」
車爆弾がそれなりの速度でホテルを目指す。ホテルの傍で爆発すれば、ホテルに大打撃が与えられるだけの爆薬が搭載されている。
だが、それがホテルに達することはなかった。
突然タイヤがパンクしたかと思うと道を逸れ、爆弾は道路の真ん中で爆発した。衝撃波が駆け巡り、ホテルの窓ガラスが割れるもそれだけだった。
「おのれ、フェリクス・ファウスト! お前ら! 突撃するぞ!」
「了解!」
前回、ホテルを襲った時は、数はごく少数だった。だが、今回は15人という規模での襲撃だ。そう簡単に迎撃されるとは思っていなかった。
だが、それも路地から表通りに姿を見せるまでの話。
表通りに姿を見せた途端、ジークベルトの部下の頭が弾けとんだ。
「狙撃だ!」
「急いでホテルに突っ込め!」
ピックアップトラックの影に隠れ、ジークベルトたちはホテルに迫る。
ホテルの窓からバラクラバを被った兵士たちが姿を見せ、ピックアップトラックに鉛玉の雨を降り注がせる。
部下がひとり、またひとりと死ぬ中、ジークベルトは復讐を果たすことだけを考えていた。フェリクスを殺すことだけを考えていた。
ホテルの玄関にピックアップトラックが到着したとき生きていたのは、ジークベルトと5名の部下のみだったが、それでも彼らは攻撃を決定した。
フェリクスの部屋は判明している。それに向かって進むのみだ。
ホテルの廊下をずんずんと進み、フェリクスの部屋を目指す。
「もうすぐです、ボス」
「ああ。もうすぐだ」
待っていろ、フェリクス。今、ぶち殺してやるからな。
そして、フェリクスの部屋にジークベルトたちは到達した。
「いくぞ」
「はい」
ジークベルトがドアのカギを魔導式短機関銃の射撃で破壊する。
そして、部下が扉を蹴り破って中に突入していく。
「ようこそ。そして、死ね」
フェリクスの部屋中には家具でバリケードが作られ、そこに魔導式機関銃などを装備したバラクラバで顔を隠した兵士たちが待ち構えていた。フェリクスも魔導式自動小銃を持ってジークベルトたちを出迎える。
「畜生。待ち伏せ──」
ジークベルトの部下が蜂の巣にされる。
「遮蔽物だ! 遮蔽物に隠れろ!」
ジークベルトが叫び、彼らはホテルの壁に身を隠す。
そこに手榴弾が転がってきた。
「不味い。伏せ──」
手榴弾は炸裂し、ジークベルトの部下たちを容赦なく屠った。
それでもジークベルトは生きていた。
全身が血塗れになりながらも、魔導式短機関銃を持って、生きていた。
部下たちは全滅している。ひとりも生き残りはいない。
ジークベルトは立ち上がり、ゆっくりと進む。
俺はどうしてこんなことをしているんだ? ジークベルトは自分に問いかける。
フェリクス・ファウストが俺を地獄の刑務所に叩き込んだから。だが、どうして俺は刑務所に入るような羽目になったんだ?
ああ。アロイスだ。アロイスに売り飛ばされないように反乱を起こした結果として、俺はけむ所に叩き込まれたんだ。
畜生。やっぱり悪いのはアロイスじゃないか。
ジークベルトは憤る。
それと同時にやはりフェリクスへの怒りに燃える。
ここまで来たのにいまさら引き返せるか。やれるだけのことをやってやる。
ジークベルトはフェリクスの部屋の扉の前に立つ。
「フェリクス・ファウスト!」
そして、魔導式短機関銃を乱射すると同時に魔導式自動小銃で蜂の巣にされた。
ああ。畜生。結局はこんな末路なのかよ……。
ジークベルトは出血で意識を失いながら、そう思った。
そして、ジークベルトが起き上がることはもうなかった。
「負傷者は?」
「いません。全員無事です」
フェリクスたちが廊下に出て索敵を実行する。
「ホテルの客を全員避難させておいたのは幸運でしたね」
「ああ。まさか室内で戦闘になるとは思ってもみなかったが。そもそも車爆弾の時点でかなり危なかったからな。何とか対応できた」
そして、ジークベルトの死体を見下ろす。
「間違いない。ジークベルトだ」
「これで暗殺騒ぎも収まりますか?」
「どうだろうな。アロイスにはまだ駒がいろいろとある」
フェリクスはそう言って唸ると、証拠の写真の撮影に入った。
ジークベルトの死体。彼の部下の死体。車爆弾の残骸。ホテル正面に乗りつけられた銃痕だからのピックアップトラック。
「よう。凄い戦闘だったみたいだな」
「ああ。銃撃戦だ。援軍がいなければ蜂の巣にされていたのは俺の方だっただろう」
「間一髪だな」
「まさに」
フェリクスが頷く。
「武器からヴォルフ・カルテルまで辿れると思うか?」
「無視だろう。ヴォルフ・カルテルもその点は用心してるはずだ。現場にジークベルトたちが武器を残すことも考えて武器を渡しているだろう。そうであるならば、武器からヴォルフ・カルテルを、アロイスを特定するのは不可能に近い」
「残念だな。こんなに証拠になりそうなものがあるってのに」
「大丈夫だ。もっと確実な証拠がそろそろ手に入る」
その時、アロイスの部屋の電話がなった。
「もしもし? はい。分かりました。そのままお願いします。我々は現場の方に向かうとします。ええ。分かっています。本当にご協力いただき謝しています。この戦争に勝利するのは我々ですよ」
フェリクスは電話に向かってそういう。
「見つけたって?」
「ああ。見つかった。アロイスもこれでもうお終いだ」
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