伸びる捜査の手
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──伸びる捜査の手
今の状況でアロイス・フォン・ネテスハイムを追い詰めるにはどうするべきか?
“国民連合”側のドラッグネットワークを潰すこと。
“連邦”側でアロイス・フォン・ネテスハイム本人を逮捕すること。
この両方をこなさなくてはならない。
既に“国民連合”側のドラッグネットワークは“ガーネット”情報のおかげで潰せる状況にある。後はアロイス・フォン・ネテスハイムを拘束してしまうだけだ。
アロイス・フォン・ネテスハイムを拘束せよ。
とは言え、そのことにやる気を持っているのはフェリクス、エッカルト、そしてヴィルヘルムと第800海兵コマンドの隊員たちだけである。
そして、今、フェリクスたちに新しい試練が降りかかろうとしていた。
「まさか。あなたたちに捜査への協力をやめろと命令が?」
「ああ。我々が独断専行で行動していると非難されている。ここは仕方ないが、引き上げるしかない」
「そんな。あなた方がいなければアロイス・フォン・ネテスハイムを拘束することなど不可能ですよ!?」
「分かっている。だが、これは命令で、私は軍人だ」
畜生。“連邦”政府は新生『オセロメー』の件で、“国民連合”に出し抜かれたと思っている。正確には“連邦”政府を傀儡にしているヴォルフ・カルテルが、だが。
「これは今までの盗聴記録だ。では、君たちの幸運を祈る」
「ええ。提督。ベストを尽くします」
フェリクスはヴィルヘルムにそう告げると、オメガ作戦基地を出た。
「これからどうする、フェリクス」
「アロイス・フォン・ネテスハイムを追う」
「どうやって?」
「どうやってでもだ」
「答えになってないぞ、フェリクス」
エッカルトに何を言われてもフェリクスは知らぬ顔をして、車を走らせた。
「アロイス・フォン・ネテスハイムをどうやって追うんだ?」
「地道な捜査の積み重ねだ」
「おいおい。勘弁してくれ。俺たちはもう何年も地道な捜査とやらを続けてきたんだぜ。そろそろ実ってもいいころだろ?」
「その通り。今こそ地道な捜査が実るときだ」
ドサリとフェリクスはヴィルヘルムに渡された資料を机の上に乗せる。
「ただ、問題がある。奴は“国民連合”政府と“連邦”政府から庇護を受けている。それを引きはがさないと、奴は逮捕できない」
「“国民連合”政府がドラッグカルテルを匿っているっていうのか?」
「その通りだ。カールとそしてマーヴェリックの件ではっきりした。奴の背後には“国民連合”政府がいる。スヴェンが告発した通りに。それがある限り、俺たちはアロイス・フォン・ネテスハイムを逮捕できない」
「畜生。確かに今まで妙ではあった。それでどうするつもりなんだ?」
「奴の庇護を何としても剥がす」
フェリクスはそう宣言した。
「どうやって?」
「それは追々説明する。まずは奴を捕えようとするところからだ」
フェリクスはヴィルヘルムから渡された資料を捲って満足そうな顔をした。
「捕まえるには奴の庇護を剥がす必要性があるって自分で言ったよな?」
「ようとする、だ。捕まえるのは不可能だが、その素振りは見せることができる」
「それに何の意味が?」
「意味はある」
エッカルトは疑問だったが、フェリクスは断言した。
「俺たちは麻薬取締局の末端だ。指先だ。頭脳ではない。だが、指先にも頭脳を動かせることがある。どういう意味か分かるか?」
「さっぱり分からん。指先が頭脳を? どういうことだ?」
エッカルトが首をひねる。
「コンロで指先に火が付いたとしたとしよう。脊髄反射で指を引っ込めることまではできる。だが、火を消して、火傷を治すには頭脳が働かなければならない。それが指先が頭脳を動かす方法だ」
「……? つまり、俺たちは火をつけると?」
「ああ。そうだ。思いっきり火をつけてやるんだ。いくぞ、エッカルト。仕事だ」
「おい。ちょっと待てよ、フェリクス! 仕事ってなんだ!?」
フェリクスは有無を言わせず、ホテルを出て、SUVに乗り込んだ。
「なあ、さっきのたとえ話だが、少しばかり間違いがあるぞ。確かに人間は指先に火が付いたら消そうとして、火傷を治そうとするだろう。だが、俺たちは厳密には麻薬取締局の指先じゃない。指先の爪程度だ。爪が折れて痛いならば、爪は切り落とされる」
「それでも頭脳は動く」
「切り捨てられるって言ってるんだよ」
「切り捨てられはしない。そうできないような証拠を握っている」
「……信じていいんだな?」
「信じてくれ」
フェリクスはそう言ってSUVをある場所に向かわせる。
「ここにヴォルフ・カルテルの下部組織の拠点がある。トラックで毎日、ホワイトフレークやブルーピルを“国民連合”に輸送している連中だ。こいつらがいきなり叩かれれば、アロイスのクソ野郎もちょっとは肝を冷やすだろう」
「フェリクス。頼むからひとりで突っ込むなんていうなよ? 分かってるよな?」
「分かっている。応援が来る手はずだ」
「応援?」
それから30分後、フェリクスたちはヴォルフ・カルテルの下部組織である密輸集団を逮捕していた。彼らは“国民連合”に護送され、“国民連合”の刑務所に収容された。
これはただでさえ、新生『オセロメー』に検問所を潰されて、ドラッグの密輸量が急激に落ち込んでいたヴォルフ・カルテルにとって大きな打撃となった。
逮捕した下部組織のメンバーは何も言わなかったが、フェリクスにはそれで構わなかった。フェリクスはただ下部組織のメンバーを逮捕し、ドラッグの密輸の罪でそいつらが刑務所に収容されればそれでよかったのだ。
それからもフェリクスの快進撃は続いた。
フェリクスとエッカルトは4つの下部組織を摘発し、メンバーをほぼ全員“国民連合”か“連邦”の刑務所に叩き込んだ。
相変わらず刑務所に入った被素行きのメンバーは何も喋らなかったが、逮捕が連続したことでアロイスから密告者として疑われた。そして、彼らのうち何名かは刑務所内でギャングの手によって殺された。
「そろそろ反応が返ってきてもおかしくないころだよな?」
「ああ。そう思う。だが、まだまだやれることをやっておこう。そろそろ──」
フェリクスがSUVに乗り込もうとしたとき、彼は車から離れた。
「伏せろ! 爆弾だ!」
「畜生!」
次の瞬間、フェリクスたちのSUVが吹き飛ぶ。
「仕掛けてきやがったな。怪我はないか?」
「大丈夫だ。畜生。死ぬかと思った」
フェリクスたちは吹っ飛んだSUVを眺める。
「新車、本局は買ってくれると思うか?」
「少なくとも車が来るまでは動けないな」
フェリクスとエッカルトが肩をすくめる。
この日からだった。フェリクスへの攻撃が始まったのは。
フェリクスたちを襲った相手は相手が麻薬取締局の捜査官だろうと殺す人間だ。
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