包囲戦
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──包囲戦
シュヴァルツ・カルテルによる都市封鎖は続いた。
ひとつ、ひとつ都市が封鎖され、中にいる新生『オセロメー』の子供兵が死ぬ。
「どうするんだ、ニコ?」
ニコの仲間が事実上の新生『オセロメー』のボスであるニコに尋ねる。
「市街地で戦ってもいずれ追い詰められることが分かった」
ニコは言う。
「なら、市街地ではもう戦わない。別の場所で戦う。連中が突かれると痛いところを突くことにする」
「どこなんだ?」
仲間が尋ねる。
「国境の検問だ。そこを買収してドラッグカルテルはドラッグを“国民連合”に運んでいる。検問所を襲撃し、機能をマヒさせる。俺たちは全ての大人に復讐するんだ。これまで見ているだけだった“連邦”の警察にも思い知らせてやろう」
「分かった。なら、都市を脱出だな」
「いくつかの仲間は残す。俺たちがまだ市街地で戦うつもりだと思わせる。残りはジャングル地帯に潜み、タイミングを見計らって検問を襲撃する」
「仲間を見捨てることになるぞ」
「そうだ。そうしないと大人たちには勝てない。あいつらは金も武器も持っている。権力があるんだ。俺たちはそれがない。だから、こうするしかない。そして、俺たちは新しい武器調達手段を考えなければならない」
もう都市で売人を襲っても資金は回収できないからとニコは言う。
「共産ゲリラ。連中を利用する。連中に共闘を持ちかける」
「共産ゲリラのせいで俺たちの両親は死んだんだぞ!」
「だから、利用してやるんだ。連中から武器をもらうだけもらって、連中の思惑とは違うターゲットを襲撃する。連中には間違ったと言っておくんだ」
「通じるのか?」
「やるしかない」
ニコたちは検問への攻撃を決意した。
だが、その一方で仲間たちは包囲されて殲滅されて行っている。
またひとつの都市が封鎖された。
封鎖された都市で、激しい銃撃戦が繰り広げられる。
長期戦になれば有利になるのはシュヴァルツ・カルテル側だということをこれまでの戦闘で思い知った新生『オセロメー』は短期決戦へと移行した。短期の間に的に損害を出させるだけ出させる。
それが決して勝利に繋がらなくとも、これまで自分たちを虐げ続けてきた大人たちへの復讐にはなる。彼らの目的は復讐なのだ。ドラッグカルテルのように利益を生み出すことじゃない。ただただ、破壊をまき散らし、自分たちを道具として使ってきたドラッグカルテルの大人たちを殺す。
利益が目的でないだけにやり方も滅茶苦茶だった。
死体に紛れて倒れておき、そのまま爆薬でシュヴァルツ・カルテルの兵士たちと一緒に爆散する自爆攻撃。バンザイチャージに等しい無謀な突撃。室内にガソリンをまいて、入ってきたシュヴァルツ・カルテルの兵士たちとともに燃え上がる自爆。
シュヴァルツ・カルテルの兵士たちは次第に精神を病んでいき、商品であるドラッグに手を付けるようになっていた。
「援軍をくれ、アロイス。援軍が必要だ」
ダニエルが焦った様子で訴える。
「俺たちの部下はもうギリギリだ。“連邦”の警察官でもいい。動員してくれ」
「無理だと言っただろう、ダニエル。俺たちは今ある駒で戦うしかない。そして、俺はお前に戦えと命じた。あんたの仕事だ。自分でやり遂げろ」
「無茶苦茶を言うなよ。敵はイカレている。俺も散々イカレた連中は見てきたが、連中本物だ。このままだとシュヴァルツ・カルテルがなくなるぞ」
そこまで言われて何もしないとなれば、ダニエルはまたアロイスに牙を剥きかねない。もうシュヴァルツ・カルテルとの抗争はごめんだ。
「分かった。“連邦”の警察と軍を動員する。ただし、マスコミ対策ができてからだ。相手が卑怯で、残虐なテロリストであるとマスコミがしっかり認識し、報道してからじゃないと動けない。分かるな?」
「分かった。あんたの言う通りに、ボス」
それからマスコミ向けの工作が行われ、マスコミが新生『オセロメー』は母体はドラッグカルテルであり、今は無差別なテロリストだということを報道する。“国民連合”のマスコミも揃って同じような報道を行う。
『一般市民を虐殺する『オセロメー』の子供兵』
『『オセロメー』の子供兵に恐怖する住民』
そういう見出しだ載ってから、アロイスは“連邦”の警察と軍を動員した。
「本当はシュヴァルツ・カルテルと『オセロメー』で殺し合い続けてもらっていたらよかったんだけどな。そうすれば、俺たちは攻撃のリスクを回避できて、麻薬取締局の注意もシュヴァルツ・カルテルと『オセロメー』に向いた。そう思わないか?」
「どうしたいところだけど、戦争を永遠に続けるのは無理だ。死人が出れば、補充しなければならない。いずれ、どちらかのリソースが枯渇してゲームセットだ」
「そういうものだよな」
理想としては憎み合うふたつの指揮が永遠に殺しあってくれることだが、あいにく世の中そう簡単にはいかない。人的リソースが枯渇すれば、どちらかはいずれ壊滅する。
そして、恐らくはそうなる前に戦闘にヴォルフ・カルテルを巻き込もうとするだろう。結局のところ、ヴォルフ・カルテルも抗争に参加する羽目になる。
「まあ、警察と軍の働きに期待しよう。『オセロメー』は今では完全に“連邦”の敵だ。“連邦”は思う存分武力行使が行える。国際世論の批判も気にしなくていい。なんとも理想的じゃあないか」
アロイスはそう言って新聞を眺める。
新聞には新生『オセロメー』を批判する記事が山というほど載せられていた。
「シュヴァルツ・カルテルにもは働いてもらいつつ、軍と警察にも『オセロメー』を潰してもらおう。全ての問題が片付いたとき、ようやく俺たちは枕を高くして眠れる」
それからも都市封鎖と包囲殲滅戦は続いた。
だが、ここで抗争が転換点を迎える。
新生『オセロメー』の子供兵が国境の検問所を襲撃したのだ。
対戦車ロケット弾と火炎瓶で国境の検問所に殺戮の嵐を振りまいた新生『オセロメー』の子供兵は攻撃後、すぐに逃げ去り、捕捉することはできなかった。
だが、この攻撃のおかげでドラッグの“国民連合”への密輸は大幅に遅れ、ドラッグカルテルはヴォルフ・カルテルもシュヴァルツ・カルテルも打撃を受けた。
「このクソガキども。やってくれたじゃないか」
検問所襲撃のニュースはすぐにアロイスに届いた。
検問所は次々に襲撃され、“国民連合”への密輸はマヒ状態。何兆ドゥカートもの取引がパーになっていく。
「マーヴェリック。『ツェット』を動員する。このクソガキどもを狩りだしてくれ」
「了解。任せときな」
マーヴェリックは軽く請け負い、『ツェット』が出撃した。
彼女たちは痕跡を追い、新生『オセロメー』の隠れ家を探し出す。
そして見つけた。
皮肉にも新生『オセロメー』の隠れ家は、初代『オセロメー』を生み出すことになった密林の中だったのである。
再び戦場はジャングルに移る。
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