都市封鎖
……………………
──都市封鎖
突如として東部の街の道路が遮断された。
街から出るための道路はハイウェイを含めて全て遮断され、都市の出口の屋上には狙撃手が待機した。
道路に土嚢が積み上げられて魔導式重機関銃陣地が作られる。
トラックが何台も都市の中に入っていき、シュヴァルツ・カルテルの兵士たちが降車する。それと同時に装甲車も出現し、都市は物々しい雰囲気に包まれた。
ついに始まったのだ。シュヴァルツ・カルテルによる都市閉鎖が。
動員されたシュヴァルツ・カルテルの兵士たちが、街を掃討していく。建物をひとつひとつ、部屋をひとつひとつ、路地裏をひとつひとつ、地下下水道をひとつひとつ。隠れられる場所は片っ端から調べていった。
「接敵!」
「叩き潰せ!」
住民が恐怖で部屋の中で縮こまっている間、新生『オセロメー』とシュヴァルツ・カルテルが交戦状態に突入する。魔導式機関銃が火を噴き、対戦車ロケット弾が飛び交い、都市は戦場と化す。
今のところ、戦局を上手く進めているのは、シュヴァルツ・カルテルだった。
これまでのように民間人の中から攻撃を受けることもなく、ターゲットである新生『オセロメー』だけを叩ける環境で、傭兵から訓練を受けた彼らが負けることはない。着実に都市をしらみつぶしにしていき、制圧を進めていく。
加えてシュヴァルツ・カルテルは水とガスと電気の供給も停止した。街は石器時代に逆戻りし、食料の供給も滞り、結果として新生『オセロメー』を兵糧攻めすることになった。これが効いたのか、新生『オセロメー』が攻撃を仕掛けてくる頻度は高くなり、シュヴァルツ・カルテルは火力の差でそれを叩き潰していった。
火力だけならばシュヴァルツ・カルテルが圧倒的だ。装甲車に備え付けられた魔導式重機関銃といい、迫撃砲といい、負ける要素はない。
シュヴァルツ・カルテルは攻撃を受けるとすぐに周辺を閉鎖し、ターゲットを追い詰める。どこに逃げようとシュヴァルツ・カルテルは新生『オセロメー』の子供兵の居場所を探し出して、撃ち殺した。
掃討戦は都市封鎖開始から14日が経過しても終わらず、市民たちは医療サービスも停止された状況で飢えと病に苦しみつつあった。
それでもシュヴァルツ・カルテルは食料の配給などは行わなかった。住民の誰が新生『オセロメー』に協力しているのか分からない以上、配給した食料が新生『オセロメー』に渡るのを危惧したのだ。
それから子供の誤射が相次いだが、シュヴァルツ・カルテルは無視した。子供を殺されたくなかったら、新生『オセロメー』の子供兵を差し出せという無言の圧力であった。
住民たちは早くこの封鎖が終わるようにと、新生『オセロメー』の子供兵を売るようになった。子供たちが売り飛ばされ、住民の目の前で射殺される。
流石の新生『オセロメー』も状況が不味い方向に向かっているのは分かっていたので、脱出を試みたが、都市の出口の守りは硬く、突破できそうにない。
そうなると新生『オセロメー』にできるのはバンザイチャージ染みた無謀な攻撃だけだった。対戦車ロケット弾でシュヴァルツ・カルテルの装甲車を狙い、火炎瓶を投げつけ、魔導式自動小銃を乱射する。
すぐに反撃が返ってくる。装甲車に備え付けられた魔導式重機関銃が火を噴き、子供兵たちよりも正確な狙いの射撃が子供兵たちを次々に屠っていく。
だが、新生『オセロメー』の子供兵もやられてばかりではない。装甲車は鉄籠による対戦車ロケット弾防御を行っていたが、子供兵は無防備な上部装甲を狙って攻撃し、装甲車を潰す。
加えて、狙撃手が街のあちこちに潜み、実戦で磨いた腕でシュヴァルツ・カルテルの兵士たちを撃ち抜く。
そうやってシュヴァルツ・カルテルも少なくない損害を出しながらも、シュヴァルツ・カルテルは新生『オセロメー』の子供兵たちを殺しきった。殺し、殺し、殺し、時には拷問して仲間の居場所を吐かせ、始末していった。
都市封鎖から31日後。シュヴァルツ・カルテルは都市内の全ての新生『オセロメー』の子供兵を殺害し、都市封鎖を解除した。
だが、すぐに次の都市で都市封鎖が始まる。
新生『オセロメー』の子供兵たちもシュヴァルツ・カルテルは本気で自分たちを潰しに来たと気づいており、都市封鎖が完了するまでに脱出することを試みた。
だが、それこそがシュヴァルツ・カルテルの、ダニエルの狙いであった。
都市部から離れた場所でシュヴァルツ・カルテルの兵士たちが待ち伏せし、新生『オセロメー』の子供兵たちをテクニカルや装甲車で襲う。都市部という隠れる場所を自ら失った子供兵は容易に狩られ、荒野に死体をさらした。
それからも戦闘は続き、脱出を諦めた子供兵たちは都市部に陣取り、ゲリラ戦を展開する。シュヴァルツ・カルテルは血を流しながら、新生『オセロメー』の子供兵たちを制圧していく。
夥しい血が流れ、都市は無政府状態となっていた。
「それで、状況は?」
「新生『オセロメー』はまだまだいるし、俺たちは出血が酷い。本当に“連邦”の警察や軍は動員できないのか?」
「できない。言っただろう。“連邦”政府はまた国際世論に袋叩きにされることを恐れている。クソッタレな国際世論、国際世論、国際世論! 連中にこの国の何が分かるっていうんだ? 連中が代わりに治安を回復させてくれるっていうのか?」
ダニエルが視察に訪れたアロイスを出迎えるのにアロイスはそう言った。
「この仕事がクソッタレなのは分かって、ジークベルトと契約したんだろう? そして、ボスの座を引き継いだんだろう? なら、しっかりとやり遂げてくれ。途中で投げ出すのはなしだ。一度ドラッグビジネスに足を踏み入れたら、誰も逃げられない」
「らしいな。しかし、相手が子供ばかりというのもぞっとする」
「相手が女子供だろうと容赦なく殺さなきゃ、ドラッグカルテルのボスは務まらないぞ。さて、ではお手並み拝見といこう」
「了解。A班、突入。B班は援護。C班は引き続き建物の監視」
狙撃部隊の援護の下で、シュヴァルツ・カルテルの兵士たちが建物に突入していく。シュヴァルツ・カルテルの兵士ももう市街地戦には慣れたもので、的確にお互いを援護しながら建物に突入していく。
そして、殺戮の嵐が吹き荒れる。
シュヴァルツ・カルテルの兵士たちは新生『オセロメー』の子供たちとの交戦状態に突入した。火炎瓶が使用されて建物が焼け、外から狙撃が加えられ、中では激しい銃撃が繰り広げられる。
「なかなかだな」
「俺たちが訓練したからな」
「なるほど」
ヴォルフ・カルテルもいざという場合に備えて『ツェット』以外の武装組織を作っておくべきかもしれないとアロイスは思った。
『クリア』
『クリア』
建物は20分ほどの戦闘で制圧され、中から子供兵と建物のオーナーが引きずり出される。そして、彼らは建物の前に並べられてから、シュヴァルツ・カルテルの兵士によってナイフで首を切り落とされ、殺害された。
「ああやって、連帯責任を取らせている。建物のオーナーも殺すし、家主も殺す。そうすれば住民の方から自主的に新生『オセロメー』のクソガキどもを差し出してくれる」
「いいアイディアだ。効率がいいな」
アロイスはダニエルのやり方に感心すると同時に、これをまた敵に回せば不味いことになるなということを感じていた。
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます