シュヴァルツ・カルテルの動員

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 ──シュヴァルツ・カルテルの動員



 ダニエルによるシュヴァルツ・カルテルはヴォルフ・カルテルの下部組織としての役割を果たそうとしていた。


 それは『オセロメー』の掃討によって。


「相手はガキどもだが油断はするな! 気合い入れていくぞ!」


「おう!」


 ダニエルたち傭兵の訓練したシュヴァルツ・カルテルの構成員たちは、高度な戦闘技術と戦術を身に着けていた。ジークベルトの忘れ形見はヴォルフ・カルテルのために役立とうとしていた。


「出発だ! 『オセロメー』のガキどもを始末するぞ!」


 ダニエルたちはピックアップトラックに乗り込み、そして戦場へと向かっていく。


 シュヴァルツ・カルテルはテクニカルを有しているが、『オセロメー』は有していない。これが戦力の差に繋がるとダニエルは思っていた。


 テクニカルは機動力と火力の両方を身に着けている。足りないのは防御力だけだ。


「接敵! 『オセロメー』と思しき武器持ったガキどもが──うわっ!」


 子供たちはテクニカルに向けて死角から火炎瓶をお見舞いしていた。テクニカルが燃え上がり、シュヴァルツ・カルテルの兵士たちが燃え上がる。


「容赦はするな! 殺せ!」


「了解!」


 シュヴァルツ・カルテルのテクニカルの魔導式重機関銃がけたたましく火を噴き、『オセロメー』の子供たちをなぎはらう。


 だが、『オセロメー』の子供たちも負けておらず、小柄な体で素早く路地裏を駆け回り、テクニカルに対戦車ロケット弾や火炎瓶をお見舞いする。


 しびれを切らしたシュヴァルツ・カルテルは迫撃砲をを投入。


 口径60ミリの迫撃砲弾が子供たちを吹き飛ばす。


 そして、その隙に魔導式重機関銃が乱射されて子供たちが防御の構えに入り、そこにシュヴァルツ・カルテルの兵士たちが突撃していく。


 仮にも傭兵に訓練を受けたシュヴァルツ・カルテルの兵士たちと何の訓練も受けておらず、実戦を経験則で戦ってきただけの『オセロメー』の子供兵とでは練度に差がありすぎた。銃撃戦になれば『オセロメー』の子供たちは成すすべなく死んでいく。


「よし。この地区は掃討完了だ」


「しかし、子供を撃つというのは」


「連中は脅威だ。敵だ。殺すことだけが俺たちにできることだ」


 シュヴァルツ・カルテルの兵士たちは子供を殺すことに嫌悪感を覚えつつも、任務は着実に実行していった。


 街から『オセロメー』が排除され、ドラッグの売人にとっての平和が訪れるかもしれないと思われた。


 だが、そう簡単にはいかなかった。


 もとより子供兵に頼ってきた『オセロメー』の子供兵の数は馬鹿にならず、あちこちでゲリラ的な襲撃が繰り返される。シュヴァルツ・カルテルの兵士が撤退すれば売人が殺され、やってきたらテクニカルのような高価な兵器を破壊して逃げる。


 シュヴァルツ・カルテルは資金的にも、組織的にも、衰弱していった。


 そんなシュヴァルツ・カルテルがヴォルフ・カルテルに泣きついたのは、抗争が始まってから3か月後のことだった。


「まさか半年も持たないとは」


「ガキ相手にはやりにくいものさ」


「そういうものかね」


 アロイスはダニエルの言い訳を聞くためにホテルを訪れた。


「アロイス」


「ダニエル。あまり上手く進んでいないらしいな」


「ああ。残念なことにな」


 残念なのはお前の頭だよ。どうして傭兵がガキに負けるんだ。


 アロイスはそう思いながらも平静を装った。


「俺たちだけで対処できるかと思ったが、連中のゲリラ戦は優れている。まず、街の構造をよく理解している。そして、実戦経験がある。シュヴァルツ・カルテルでは実戦経験がある連中はおたくの傭兵に殺されたからな」


 ダニエルが恨みがましく言うのに、マーヴェリックは肩をすくめた。


「つまり今のシュヴァルツ・カルテルには素人しかいないと?」


「訓練は施してある。だが、実戦と訓練は大きく違う。そして、今の『オセロメー』の恐ろしいところは人込みから攻撃を仕掛けてくるところだ。連中は一般市民を装って、攻撃してくる。これで精神が参っている兵士が多い」


「怪しければ民間人ごと始末すればいい」


「簡単に言ってくれるがリスクを負うのは俺たちなんだぞ」


 そうさ。お前たちはリスクを背負うために生かしてあるんだ。


「では、掃討戦はいつ終わる?」


「不明だ。分からない。豹人族のガキを片っ端から殺す許可を得ても無理だぞ。俺たちは既にかなり無差別にやってる。それでも連中を根絶やしにすることなんてできやしない。奴らはジャングルから都市に移ったゲリラだ」


 畜生。改革革命推進機構軍も面倒なものを置いていきやがって。


「都市封鎖だ」


「何だって?」


「都市を封鎖して、包囲殲滅する。やれるだろう?」


「あんた、正気か!? ドラッグカルテルが都市を封鎖?」


「できるだろう?」


 有無を言わせず、アロイスが尋ねる。


「……できないことはない。だが、それなら“連邦”の警察や軍にやらせた方がよくないか? あんたが抗争で連中を使っていたように」


「“連邦”政府は少数民族問題にナイーブだ。昔、軍がやたらめったら弾圧したせいで、国際世論から非難されたのを引きずっている。もし、軍が少数民族の子供を撃ち殺している写真が掲載されれば? “連邦”政府は裸足で逃げ出すだろう」


「畜生。そういう事情か。分かった。だが、俺たちが都市封鎖を行ってい間に“連邦”の警察や軍が介入してくることだけは避けてくれ」


「分かった。手配しよう」


「クソ。こいつは本当に地獄だぞ」


 お前たちの起こした反乱が原因なんだぞとアロイスは思う。


 そのせいで『オセロメー』まで反乱を起こし、勢力を拡大した。今やいくつもの州と都市に疫病のようにその勢力を拡大し、分裂し殺し合い、ガキどもが乗っ取った後も勢力を維持している。


 全ての原因がお前らシュヴァルツ・カルテルの反乱にあるんだからな。


「都市封鎖をひとつずつやっていこう。全ての都市を一斉に封鎖するのは無理だろうからな。確実にひとつずつ、根絶やしにしろ」


「了解、ボス」


 ダニエルは皮肉気にそういうと、部下を連れて帰った。


「なあ、末端の売人がいくら殺されようとあたしたちは痛くもかゆくもないだろ?」


「末端の売人は汚職警官だったり、運び屋であったりするんだ。連中への給料はドラッグで支払われる。ドラッグが売れなきゃ食っていけない。それをガキどもが殺しまわって、金を奪っている」


 マーヴェリックが尋ねるのに、アロイスがそう言う。


「それに加えて、だ。連中は俺たちの面子を潰している。ガキの兵隊にドラッグカルテルがいいようにやられているなんてことが知れ渡ったら、碌でもないことになるのは確実だ。なんとしても阻止しなければならない」


「あいよ、ボス。で、あたしたちは?」


「俺たちまで子供殺しと罵られる必要はない。シュヴァルツ・カルテルに思う存分、殺してもらうとするさ」


 アロイスはそう言ってこの騒動がさっさと終わってくれることを願った。


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