傭兵を叩く
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──傭兵を叩く
フェリクスたちが傭兵集団に狙いを定めていたとき、ヴォルフ・カルテルでも傭兵集団を狙った作戦が展開中であった。
「ネイサンから興味深い情報が手に入った。傭兵どものボスについての情報だ」
「へえ。あの兵器ブローカーがね」
ネイサンは表向きは未だにヴォルフ・カルテルと付き合っていた。
それに今の状況はネイサンにとって稼ぎ時である。この時を見逃す手はない。
「傭兵集団のボスはダニエル・ディナール。エルニア国の海軍水陸両用コマンド出身。各地で傭兵業にいそしんでいた。“国民連合”政府からはテロリストとのかかわりを指摘されて指名手配されている」
「で、居場所は?」
「さあ? それが分かればこうして君たちにどうでもいい話をしていない」
「なんだそりゃ」
マーヴェリックが肩を落とす。
「とにかく、傭兵部隊の中心人物は分かった。こいつに賞金をかける。味方が売るかもしれないし、警察や軍が熱心に捜索してくれるようになるかもしれない。いずれにせよ、こいつにはいなくなってもらわないとな」
「その賞金ってのはあたしたちも受け取れるのか?」
「もちろんだ。ボーナスを出すよ」
「そいつはやる気がでるね」
マーヴェリックはにやりと笑った。
「敵の傭兵集団の動きは不明だ。どうすれば分かると思う?」
「連中はシュヴァルツ・カルテルの兵士どもを訓練してる。それも仕事のうちなんだろう。だから、航空偵察でそれらしき場所を見つけ出せれば、アジトは掴める」
「なるほど。では、早速航空偵察を実施させよう」
「ただ、連中は対空ミサイルをもってやがる。うちの低速の機体じゃ撃墜される可能性があるからな」
「ふうむ。パイロットも機体も貴重なものだしな……」
アロイスたちは考える。どうすればリスクを冒さずして、航空偵察を実施できるだろうかということを。
「仕方ない。“連邦”空軍に動いてもらおう。連中はここ最近での事件から、ジェット偵察機を導入していたはずだ。流石にジェット機なら落とされないだろう?」
「まあ、落とされたとしてもこっちの財布は痛まないね」
「酷い話だ」
アロイスはそう言いながらも、“連邦”政府に電話する。
もう“連邦”政府とヴォルフ・カルテルの結びつきは明らかだった。
「……それは事実か? 分かった」
アロイスは深刻そうな顔をして電話を切る。
「先に“国民連合”空軍が航空偵察を実施する。麻薬取締局の要請だそうだ」
「“国民連合”がシュヴァルツ・カルテルを潰してくれるなら、任せちまうか?」
「いや。どうも怪しい」
アロイスは理由は分からなかったが、直観として自分たちがやろうとしていたことを、先に“国民連合”がやろうとしている事実に違和感を感じていた。
「情報をブラッドフォードに横流しさせて、こっちはこっちで動く。航空偵察の実施は“国民連合”空軍機が到着する5日後だ。それまでにもこっちで動いておこう」
「傭兵どもを叩く?」
「少なくとも連中も前線が押されていれば動くだろう」
アロイスがそう言う。
「警察と軍が戦線を押して、傭兵が動いたら『ツェット』を投入する。連中を殺して、戦闘力を可能限り奪う。確認されている傭兵集団は12名で1名は弾薬庫とともに吹き飛んだ。残り11名だ。どうにかしなけりゃいけない」
「オーケー。まあ、任せときな」
「ああ。頼むよ、マーヴェリック」
ここでしくじったらどうなるか分からない。
「しかし、“国民連合”空軍に麻薬取締局から航空偵察要請……。何か臭うな」
それから警察と軍はじわじわとシュヴァルツ・カルテルを追い詰めていった。
東部の反乱はワイス・カルテルの分裂によって『オセロメー』が残るのみ。その『オセロメー』も縄張りを守ることに集中していて、攻撃を仕掛ける気配はない。
その間、警察と軍はシュヴァルツ・カルテルの掃討に従事する。
警察と軍の部隊が突然の逆襲に遭ったのはそんなときだった。
高度な戦闘技術を有する集団が警察と軍の部隊を襲撃し、警察官9名と陸軍の兵士12名が死傷した。
間違いなく傭兵が動いたとアロイスは判断し、『ツェット』を派遣する。
ヘリで『ツェット』の部隊は現場周辺に派遣され、警察と軍が包囲する中、傭兵たちを探して、偵察を始めた。
そこに『ツェット』とは別のヘリが飛来したことにマーヴェリックが気づく。
「陸軍じゃないな」
「あれは“連邦”海兵隊の機体ね」
「海兵隊か。ちとばかり面倒なことになりそうだな」
マーヴェリックの予感は的中した。
“連邦”海兵隊は第800海兵コマンドを派遣し、それにはフェリクスとエッカルトも同行していたのだ。
それでも『ツェット』は傭兵を探し、フェリクスたちも傭兵を探す。
そして──。
「動くな!」
最悪の状況でふたつの勢力は鉢合わせした。
傭兵3名を挟んでフェリクスとマーヴェリックが対峙したのだ。
「それはこっちの獲物だ。大人しく撤退しな。指示は出てるだろう?」
「聞いてない。我々は麻薬取締局だ。大人しくその男たちをこっちに渡せ」
「そっちこそそいつらをこっちに渡せ」
フェリクスもマーヴェリックも一歩も引こうとしない。
「分かった。そっちに1名渡す。こっちは2名受け取る」
「ダメだ。全部あたしたちがもらう」
「陸軍の部隊だろうが、装備が妙だな」
「そっちこそ、麻薬取締局がどうして海兵隊と?」
睨み合いが続き、傭兵たちは両手を挙げたまま自分たちの命運を左右する話し合いの様子を見つめ続けていた。
しかし、それは唐突に打ち切られた。
「撃て!」
傭兵が突如としてそう命じ、フェリクスとマーヴェリックを銃撃しようとする。
「蜂の巣にしろ!」
「生きたまま捕まえろ!」
マーヴェリックたちは傭兵たちを蜂の巣にしようし、フェリクスが銃口を突き付けて傭兵を物陰に引きずり込んだ。
「あんた、フェリクス・ファウストだろう!?」
「そうだ! それがどうした!」
「きっと後悔することになるからな!」
マーヴェリックたちは傭兵2名を射殺すると撤退していった。
「畜生。今のは陸軍の部隊じゃない。ヴォルフ・カルテルの部隊だ」
「クソッタレ。カルテルの狙いも傭兵か」
「少なくとも1名は確保できた。後はボスの居場所を確定させるだけだ。それも後半日程度で判明する。いよいよジークベルトを抑えるぞ」
フェリクスはそう言って傭兵を連れて、オメガ作戦基地に帰投した。
傭兵はフェリクスたちが薄々予想していたように何も喋らなかった。
傭兵は基地内の営倉に入れられ、捕虜としての扱いを受けた。
「思った通り、何も喋らんな」
「そうペラペラ喋るお喋りは傭兵はやっていけないんだろう」
フェリクスたちはそう言って航空偵察の結果を待った。
そして、ついにそれはやってきた。
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