【過去編】永遠の夏⑯
Side 山口陽佳
今日も結城との練習が終わった。
「結城、ラーメン好きか?」
「塩ラーメンは好きです」
「塩限定かよ。でも、調度いい。近くにうまい塩ラーメンの店があるから行かないか?」
この日は、ラーメンをご馳走してやろうと決めていた。
結城は1人暮らしで、晩御飯も1人で食べているようだったし、何より結城ともっと話をしたかった。
「あ、行きたいです!」
結城は前のめり気味で言ってくれた。
最近、結城も、俺と話するのを楽しいと思ってくれている気がする。
俺らは、雨の中、車で少し移動したところにあるラーメン屋に入った。
オススメのあっさり系塩ラーメンを2つ頼む。
俺は大盛り、結城は並盛りだった。
俺らは、カウンターに横並びに座った。
「あ、ONE PIECEがある」
近くの本棚に漫画が収められており、大人気漫画のONE PIECEが置いてあった。
「結城ってさ、ONE PIECEで言うと、チョッパーっぽいよな」
「それ…褒めてるんですか?それともバカにしてますか?」
結城は、クリっとした目を細めて睨むようにして言った。
「バカになんてしたことないだろ」
「いつもするじゃないですか」
俺らの最近の会話はだいたいこんな感じだ。
「先生は、ルフィって感じです」
「え、そうか!?どのへんが?」
主人公じゃん。
道化のバギーとかその辺ぶっ込んでくるかと思ったのに。
「ルフィは、仲間が危ないときに助けに来てくれるじゃないですか。先生も僕の事を助けてくれたから。」
結城の言葉にちょっと涙が出そうになる。
「なぁ結城。お前が困ってるときは、俺は何度でも助けるよ」
俺はそう言った。
絶対に、どんな時でも、俺は結城の味方をしたいと思っている。
結城はわかりやすく嬉しそうな顔をしてくれた。
暫くして、ラーメンが来た。
「あ、おいしい」
ひとくち食べた結城が言った。
よかった、気に入ったようだ。
「うまいだろ?」
そう言って結城の方を見た。
こんなに近くで結城の顔を見たのは初めてかもしれない。
結城の横顔は、鼻筋が通っていて、肌も艷やかで、ニキビひとつなく、とてもきれいだった。
美少年ってこういうこと言うんだな、と俺はしみじみと感じた。
こんな可愛い少年と、俺みたいな熊男が一緒にいるって何か不思議だな。
周りからはどう見えているんだろう。
ラーメンを食べ終わり、外に出る。
「お、雨、止んだな。雨上がりの匂いがするな」
「ペトリコール」
結城が呟くように言った。
「ん?なんだそれ?何かの呪文か?」
「雨に濡れた地面や植物が発する匂いの事を、そう言うらしいですよ」
そういって、結城は深呼吸をした。
「僕、この匂い、好き」
そう言って、俺の方を見てニコッと笑う。
恋に落ちる瞬間というのは、まさにこういうときなのかもしれない。
雨の匂い
夏の風
ラーメンの香り
結城の笑顔
俺は、
この15歳も年下の少年を好きになっていた事に気付いた。
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