【過去編】永遠の夏⑩

Side 山口陽佳



生徒じゃなければ半殺しにしていた。


結城が、あのワル4人組に連れて行かれたというのを見た生徒から聞いて、探し回った結果がこれだった。


もっと早く来てやれば…。


悔しくて仕方ない。


俺は、全裸でぐったりとしている結城を抱き上げて言った。


「ごめんな、もっと早く来てやれなくて」


返事はなく、小刻みに彼は震えていた。



あいつら4人の処遇はあとで考えるとして、まずは、結城を助けてやらないと。


「とにかく、保健室に行こう」


俺は自分の上着で彼を包みながら言ったが、彼は俺の袖を掴み震える声で言った。


「ほ、保健室は…、いや、です」


「なんで、あ…」


それはそうだ。


彼は、自分が何をされたのか知られたくないんだ。


それが保険医であろうが誰だろうが、知られたくない事に変わりはない。


でも、そうなるとどうすればいい?


少し考えて俺は言った。


「じゃあ、とりあえず俺の家に行こう。このまま体育館裏の俺の車まで結城を運ぶ。家まで車で15分くらいだ。いいか?」


結城は小さく頷いた。


俺は急いで結城を車へ運び、彼の制服と鞄も車へ放り込む。


そして、自分の荷物と車の鍵を職員室へ走って取りに行った。


もう定時を過ぎていていたので、挨拶だけしてすぐに職員室を出た。


仕事なんて明日でいい。


そして、結城を乗せた車を家に向けて飛ばした。


シャワーを貸してやり、結城に合うサイズの服がたまたまあったので、それも貸してやった。


彼は、虚ろな表情でシャワーを浴び、着替えた。


今は俺のベッドで寝かせている。


疲労困憊したのだろう。静かに寝息を立てていた。



あいつら4人組は、色々な前科もあり、元々退学の一歩手前だった。


今回の1件で確実に退学になるだろう。というか退学させる。


問題は結城だ。


不登校気味だった彼がせっかく学校に来てくれたのに、こんな事になってしまって…。


これではまた不登校になってしまう恐れがある。


なんとかしてやりたい。


俺は、帰宅後の楽しみにしているビールを飲むのも忘れて、彼の事だけを考えた。


それにしても、こんな時に不謹慎だが、結城の身体はとても綺麗だった。


あまりにも色が白く、最初遠巻きに見たときは、女性が襲われているのかと思った。


抱きかかえたときも…


あのときは、慌てていてあまり意識できなかったが、とても柔らかく滑らかな身体だった。


危うい美少年の魅力とでも言うのだろうか。


彼は美しい。


俺は、両手を握ったり開いたりしながら、その感触を思い出していた。


「先生…」 


その時、後ろから声がした。


ハッとして振り返ると結城がいた。


「大丈夫か?」


結城に声をかける。


元々色白の顔がさらに白く見えた。


「はい。あの、ありがとうございました」


ペコリと頭を下げる。


礼儀正しい子だな、と思った。


「いや、いいんだ。礼なんて」


そして、沈黙が生まれた。


俺は彼に何て声をかければいいのか。


こんなとき、なんて言ってやればいい?


俺は言葉を探していた。


結城も何を言っていいのかわからないようだった。


あまりに静かな部屋に、お互いの息遣いだけがきこえた。


「じゃあ、僕そろそろ…」


「ダンス、教えてくれよ!」


結城が帰ると言おうとする前に、俺は言った。


「…ダンス?」


結城は、何の話だろう、という感じで首を傾げていた。


そりゃそうだ。


俺だって何言ってんだって自分で思ってる。


「あぁ。ダンスを俺に教えてくれ。結城、うまいだろ?俺は先生だからダンスの授業をしなきゃいけないんだが、ここだけの話、どうも苦手なんだ」


不思議と言葉がすらすらと出てきた。


「放課後とか、時間があるときでいいから。帰りも車で送ってやる。だから、よかったら教えてほしい。まぁ本来、俺が教える立場だから、逆転しちまうけどな」


俺は照れ笑いを交えてそう言った。


結城は少し驚いたような表情をしていたが、黙って聞いてくれていた。


そして、


「…僕でよければ」


と少し笑って言った。


「あぁ、結城がいいんだ。ありがとう。」

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