【過去編】永遠の夏⑪

Side 空


その日は先生が僕を家まで送ってくれた。


次の日は、学校を休んだ。


あまり体調がよくなかったのもあるけど、やっぱり行くのが怖かった。


その日はずっと布団から出なかったけど、夕方頃、スマホが鳴った。


サキヤかと思って見たら、先生からだった。


昨日、番号を教えてもらっていたんだ。


僕は電話に出た。


「…もしもし」


「結城か?」


「はい」


学校に来なかった事を怒られるのかと思い、膝を抱き寄せた。


「あいつら、退学にしたから」


「…え?」


「あの4人組、退学にした。もう学校には来ない。」


「そう、ですか…」


それを聞いて、少し安堵した。


「明日の放課後、ダンス教えてくれないかな?」


先生が言った。


僕は黙ってしまった。まだ学校に行く事に躊躇いがあった。


「俺が結城を守る」


僕の心を読んだように、少しの沈黙のあと、先生が言った。


「俺が絶対にお前を守るから。代わりに、結城は俺にダンスを教えてくれ」


優しかった。


電話口から聞こえる先生の声は、今まで会った誰よりも優しかった。


僕が学校に行く後押しをしてくれているんだとすぐに感じた。


守る、なんて誰かに言われた事がなかった。


涙が1筋、頬を伝うのがわかった。


泣いていたなんて、


涙が目から溢れるまで、自分で気付かなかった。



「…結城?大丈夫か?」


先生の心配そうな声が聞こえた。


「っ、はい。明日、ダンス教えます」


僕は答えた。


明日は学校に行こうと思った。


1日だけ休んでしまったけど、事情を知らないクラスメイト達はいつも通りに接してくれた。


僕にはそれが嬉しかった。


特別な事が何もない、何の変哲もない日常に僕は安堵する。


それがよかった。


それだけでよかった。



放課後になったら教室で待っていてほしいと先生に言われていた。


一応、秘密の特訓という事らしいので、友人達には適当に理由を付けて、僕は一人、教室に残った。


ダンスを教えると言っても何から教えたらいいのかな。


そもそも僕もダンス歴が長い訳じゃないし、僕なんかが教えていいのかな。


でも、先生は「結城がいい」って言ってくれていた。


その一言が嬉しかったし、期待に応えたい。


なんか今日一日、そのことだけを考えて、ソワソワしてしまっていた。


その時、教室の扉がガラッと開いた。


「結城、お待たせ!」


先生がやって来た。


先生を見たら、胸の鼓動が早くなるのを感じた。


なんで?


緊張してるのかなぁ。


「結城、近くの市民館の小さい体育館を予約したんだ。車で移動しようと思う。行けるか?」


「は、はい」


僕は、慌てて鞄を持って先生に駆け寄った。


でも、先生の前まで来たところで、緊張のせいか足がもつれてしまった。


「おっと」


倒れ込みそうになった僕を先生が支えてくれたのだが、結果、抱きつくような形になっちゃった。


「ぅわ、ごめんなさい」


僕は慌てて体制を立て直した。


こんなベタ事してしまうなんて。


そういえば僕、この間、先生に裸を見られてる…


急にそんな事が頭をよぎって、慌てて首を振る。


なんでこのタイミングでそんなこと思い出すの!


自分の頭の中の記憶を司る海馬とやらにツッコミをいれた。


「結城?大丈夫か?」


挙動不審な僕を見て心配だったのだと思う。


「だ、大丈夫っ!…です」


僕は慌てて答えた。


多分だけど、顔が真っ赤だったと思う。

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