(日常小話)見つめる先には

Side 空



放課後。


委員会の仕事が終わり、帰宅しようと下駄箱を出た。


数人の生徒がグラウンドでサッカーをしているのが見えた。


楽しそうだなと思って眺めていると、一際背の高い目立つ人影が…


え、ひよしさん!?


なんとひよしさんが生徒達に交ざってサッカーにうつつを抜かしていた。


しかも、すごい楽しそう…


僕はため息をつく。


もう、何してるんだろう。


ちゃんと仕事してよ。


呆れながらも、ついついひよしさんの姿を目で追ってしまう。


サッカー、うまいなぁ。


さすが体育教師。


あ、ゴール決めた。


なんか生徒より楽しんでない?


あんなに汗かいて、夢中になって…


「子供みたい」


思わず声に出して、クスッと笑ってしまった。


生徒に交じって無邪気に遊ぶひよしさんから目を離せなかった。


その無邪気さがなんだか可愛かったし、サッカーをする姿はカッコイイと思った。


ふと、ひよしさんと目があってしまった。


ついじっと見てしまっていた事にハッとして、僕は咄嗟に目を反らしてしまった。


すると、ひよしさんが小走りで近付いてきた。


「よ、空。帰るのか?」


「う、うん。帰る」


じっと見てしまっていたのが気まずくて、ちょっと伏し目がちに答えた。


「一緒にサッカーやってくか?」


「ううん。僕、球技苦手だし」


「そうだっけ?ダンスはあんなにうまいじゃねーか」


「ダンスは球技じゃないもん」


僕らはいつもの調子で会話をする。


学校では、僕らの関係は秘密だから、校内でひよしさんと話をする時は少しドキドキする。


でも、今は…。なんでかな、いつも以上にドキドキしていた。


「ひよしさん、仕事しなくていいの?」


「あぁ、今日はもうほぼ終わり。グラウンド見回りしてたら、あいつらがサッカーやろうって誘うもんだから、仕方なく付き合ってやってたんだよ」


「仕方なくって顔じゃなかったよ」


僕は唇を尖らせて言った。


すると、ひよしさんが突然僕の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。


「バレたか」


悪びれた様子もなく、ひよしさんが笑う。


その笑顔を見ると、何か言いたかったけど何も言えず、僕はただ頭をわしゃわしゃされるがままになっていた。


「もう少し待っててくれれば、車で一緒に帰れるけど?」


「ううん、大丈夫。車で送ってもらうの他の皆に悪いし、なるべくちゃんと電車で登下校しようと思うから」


「そっか、わかった」


僕とひよしさんは数秒見つめ合って、キスしそうな雰囲気になった。


「ひよしせんせー!サッカーやんねーの?」


グラウンドから声がして、慌ててお互い顔を離した。


「おー、いまいくー!」


ひよしさんは大きな声で返事した。


「じゃあ、空、またあとでな」


「うん、サッカー楽しんでね」


ひよしさんはグラウンドに向かったが、数歩進んでこっちを見て言った。


「空、『生徒と一緒になって楽しそうにサッカーして、ひよしさんってやっぱ子供だなー』って思ってただろ」


僕の事を指差しながらひよしさんが言った。


「バレたか」


僕は、ひよしさんの真似をして笑顔で答えた。


ひよしさんはニヤッと笑うと、小走りでグラウンドへ戻って行った。


その後ろ姿、


大好きな人の大きな背中を、


僕は瞬きもせずに見つめていた。







END

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