(日常小話)little by little
Side ひよしさん
俺は猛烈にジェネレーションギャップを感じている。
さっき生徒達と音楽の話をした時のことだ。
3代目だの、セカオワだの、ワニマだの…
ひとつも知らん!
確かに俺は音楽に詳しい方じゃないが、それにしてもひとつも分からないとは!
ショックだった。
もう俺もおっさんになってしまったか。
「ひよしさん?何突っ立ってるの?」
廊下で立ちすくんでいるところを声をかけられ、振り返ると空がいた。
学校内で空と話をすることはあまりない。
「お前、学校では敬語使えよ。一応生徒と先生なんだからさ。俺らの関係は極秘だぞ」
「誰もいないから大丈夫だよ。それに今更敬語なんてムリだもん」
「無理ってどういうことだよ」
こいつって本当に普段は小生意気だよな。
「あ、そうだ。空って、音楽とか何聴くんだ?」
そういやコイツがどんな音楽を聴くのか、ちゃんと聞いたことなかった。
「何?藪から棒に」
「いや、さっき生徒達とそんな話してたら知らねー名前ばっか出てくるから、ちょっとジェネレーションギャップ感じてヘコんでんだよ」
「あ、それで突っ立ってたんだ。んー、何聴くかなぁ。洋楽のヒップホップとか?」
「ヒップホップ!?お前が!?」
顔に似合わなすぎて吹いた。
意外過ぎる。
「一応ヒップホップダンスやってますから、僕」
ちょっとムッとしたらしく、薄い唇を尖らせて空が言った。
「お前、その可愛い顔やめろ」
こういう表情を無意識でやるから困りもんだ。
「別に可愛い顔なんてしてないもん。あ、あと、カラオケではセカオワとか唄うかな」
でた、セカオワ。
なんの略なんだそれ。
ってゆーか…
「お前、カラオケとか行くのか??」
これまた意外だった。
でも考えてみれば、男子高校生なんだし、カラオケくらい行くよな、普通。
「いくよ。たまに誘われたときだけって感じだけど」
「俺、カラオケなんて人生で数える程しか行ったことないぜ」
「確かに、ひよしさんとカラオケ行ったことないね」
言われるまで気付かなかったが、恋人同士なのにカラオケに1回も行ってないんだな俺ら。
つーか、こいつって歌うまいのか?どんな歌声なんだろう。
すげー気になってきた。
「よし、今日行くか!」
俺は、空の肩に手を回して言った。
「ち、ちょっと、学校では生徒と先生なんでしょ!?」
空は慌てて俺の手を押し返す。
そんなに嫌がるなよ、凹むだろ。
まぁそんな訳で俺らは2人で初めてのカラオケに行くことになった。
生徒と教師では学校を出る時間が違う為、1回帰宅してから車でカラオケに行くことにした。
「あんまり意識してなかったけど、この辺、歩いて行ける距離にはカラオケないんだね」
「そうだな」
俺らは、車内で談笑しながらプチドライブを楽しんだ。
こういう、空と過ごせるちょっとした時間、俺結構好きだわ、なんて考えながらハンドルを操作する。
「そうだ、俺が空くらいの年のときに好きだった曲かけるわ」
俺が高校のとき流行っていたGLAYをかけてみた。
でも、空はピンと来ていないようだ。
「あれ、知らねー?」
「うん、ごめん、わからない」
まじか!
今の高校生、GLAY知らねーのか!
ますますジェネレーションギャップを感じ、危うくハンドル操作を誤りそうになる。
まぁ無事にカラオケには着けた。
受付を済ませ、カラオケルームに入る。
最近のカラオケってこうなってんのか。
曲入れるのもタッチパネルかよ。
落ち着かない俺を見て空がクスッと笑った。
「ひよしさん、田舎者感がすごいよ」
「うるせーな。早く唄えよ」
「え、僕が先に唄うの?」
「そりゃそーだろ。こういうのは年下から唄うって決まってんだよ。」
空は、仕方ないと言う感じで、慣れた手つきでタッチパネルを操作して曲を入れた。
いよいよ、こいつの歌声が聴ける。
なんかソワソワしてきた。
何の曲入れたんだ?
セカオワってやつか?
と思っていたら、画面の表示を見て思わず声をあげてしまった。
「松田聖子かよ!」
まさかの松田聖子の赤いスイートピー。
なんでそのチョイスなんだ!?
「あ、知ってる?よかった。ひよしさんが知ってそうなのって何かなーって考えたんだど、古い曲はこれしか知らなくて」
いや、これ俺よりもうちょい上の世代の曲だし。
つーか古いとか言うな。聖子さんに失礼だろうが。
そんな俺をよそにマイクを手に取り、空は唄い始める。
か、
か、
可愛い!!!!
天使か!!!
空の歌声はとてつもなく可愛かった。
男の子にしては少し高めの透明感のある甘い声。
俺は後悔した。
なんでもっと早く聴かなかったんだ!
こんなに可愛い声で歌を唄うなんて!
♪I will follow you あなたに付いていきたい~
って、俺が付いていきたいわ!
俺が無言で聴き入ってると、あっという間に曲は終わってしまった。
「…ねぇ、何で無言なの?緊張しちゃうじゃん」
空がまた唇を尖らせて聞いてきた。
だから無意識でその可愛い顔すんのやめろって。
「わりぃ、何か感動しちまって」
「なにそれ。早くひよしさんも曲入れてよ」
思いの外、空がちょっとテンション高い。
そういや、普段あまり喋らない空が、車乗ったあたりから結構喋ってたような。
実は、楽しいのかな。
俺とカラオケに来れたことが。
「よし、俺も歌うぜ!」
と言って爆風スランプを熱唱した。
空が耳を塞いでいるのが横目で見えたような。
歌い終わった俺は、
「どうだ?俺の歌声は?」
と空に感想を求めてみた。
「う、うん。声量すごいね」
空は、俺に目を合わせずに気まずそうに言った。
「つまりうるさかったって事だな」
「うーん、まぁ否定はしないかな」
「てめー、そんなこと言う奴はこうしてやる」
俺は、マイクを空の股間に押し付け、グリグリした。
「やっ、ちょ、やぁんっ、な、にするの…、変態!」
「生意気なガキにイタズラしてんだよ」
「マイクで遊ばないで!」
そんな感じでキャッキャッしつつ、空の可愛い歌声を聴きつつ、
2人で行った初めてのカラオケは、最高に楽しかった。
帰りの車の中で、また俺は音楽をかけた。
「あ、僕これ知ってる」
たまたま流れたのはジュディマリのOver Driveだった。
「へぇ、よく知ってるな」
「YUKI好きだから、ジュディマリも知ってるよ」
なんか今日一日で空の知らないところをいっぱい知れた気がする。
俺らはまだまだお互いに知らないことばかりなのかもしれない。
俺は空のことを、これからもっと知っていきたい。
少しずつ、少しずつ。
「ちょっと遠回りして夜景でも見ながら帰るか」
「付き合ってもいいよ」
そう言いながらニコッと笑う空。
ほんっとに小生意気な奴だ。
END
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