納得できない



【 舌切雀(したきりすずめ) 】



「─────というわけで、欲目を出して大きな葛籠(つずら)を選んだ意地悪爺さん夫婦は、葛籠から出てきた妖怪に襲れるのでした。欲張ると結局損をするというお話ですね」




「はい、先生。その話って、なんかおかしくないですか?」



「えっと、助けた雀に招待された雀のお宿で歓迎の宴をしてもらって、最後にお土産で金銀財宝を貰った正直爺さんと、欲目を出して妖怪を持ち帰った意地悪爺さんの話ですよ?。何がおかしいのでしょうか?」



「はい、先生。まず、感謝で宴に誘われたから行くのはまぁいいですよ。既に料理とかも準備してあった訳ですし、断ったら食材も無駄になりますからね。でも、お土産の葛籠はどう考えてもおかしくないですか?」



「えーっと、欲張ると碌な事がないぞっていう教訓なんですけど、なにがそんなにおかしいのでしょうか?」



「はい、先生。だって、欲張るのが悪いというのなら、そもそもお土産を断るべきじゃないですか?。金の斧は正解の答えをした副賞で貰ったって事で理解できますけど、これが欲張り云々の話だというのなら、そもそも葛籠を受け取った時点でアウトじゃないですか?。なのになんで当たりで金銀財宝手に入れてるんです?。金の斧の話は元々失くしてたものを取り戻すチャンスを与えたので、欲張ったら何も渡さないのは正しいと思いますよ?。でも、舌切雀は絶対おかしいですよね!?」



「いや、確かにそうかもしれませんが。だとしたらアレですよ、どちらか持って帰ってもらわないと帰さないと泣きつかれたとかじゃないですかね?。もちろんそんな事はないとは思いますが」



「はい、先生。それならそれで、もし仮に正直爺さんが大きい方を選んだらどうしたつもりなんでしょうか?。雀を助けたのに無理やり宴に参加させられて、挙げ句確率5割のガチャを強制でやらせるとか、明らかに普通じゃないですよね?。そもそも雀は何をしたかったんでしょうか?」



「………」



「はい、先生。似たような話で『浦島太郎』がありますけど、あれは時間が流れたという現実を本人に反映して、元の時間の流れに戻す為だったとすればまだ納得できるじゃないですか?。知らないまま生きるか、真実を知って死ぬかは本人の価値観ですからね。でも、今回の拉致からの強制ガチャはどう考えてもおかしいと思いませんか、先生?」



「まぁ、言わんとすることは分かりますが…」



「はい、先生。それに、でっち上げで宴に参加した意地悪爺さんですよ。偶々大きい葛籠を選んだからそれっぽい話になったけど、もし小さい方を選んでいたら、『結局悪者だけが得する、そんな世界』みたいな話になったんですよ?。教訓になってるのは結果論であって、あまりに雑ですよね?」



「正論すぎて何も言えねぇぞ、おいぃぃぃぃっ!!」

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