捉え方は時代にも依る
【 五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ) 】
「戦闘の際に50歩逃げた者が100歩逃げた者を臆病だと笑ったが、逃げたことには変わりはないという「孟子」の話から、少しの違いはあっても、本質的には同じであるということですね。類似語で『ドングリの背比べ』などがあります。ただ注意するべき事として、この言葉は共にダメな場合に使う言葉なので、用法には気をつけましょう」
「はい、先生。ちょっとそれっておかしくないですか?。」
「おかしいとは一体、なにがでしょうか?」
「だって、ヨーイドンで一緒に逃げて相手の倍の100歩も逃げたんですよ?。つまり逃げるという事においては優れてたのは100歩の方ですし、むしろ50歩の方が『愚鈍がっ! 』って罵られるべきなのではないでしょうか?」
「いえ、論点はそこではないのですよ?。戦場から逃げた事がそもそも悪い事で、そこに距離の違いなど些細なことだという話なんです」
「はい、先生。でも逃げた二人はこの戦で命の危険を感じて逃げた訳ですよね?。思考を放棄して従軍して命を落とす事を考えれば、この二人は聡明な判断をしたんではないでしょうか?。それなのに二人が悪いというのは、所謂上から目線のパワハラですよね?。ブラック企業みたいで、正当性があるとはとても思えません」
「ぱ、パワハラ…ですか?。う~ん、確かに現代だとそう取られるかもしれませんが、昔はそういう概念があまりなかったといいますか…」
「はい、先生。それならそもそもの話、末端の兵ですら生命の危機を感じる程の負け戦に兵を注ぎ込んでいる上官が本当の無能なんじゃないでしょうか?。普通に考えたら、明らかに負ける戦いに兵を投入しないで、もっとましな戦略を練りますよね?」
「確かに、いつの時代も人命は大切なんですけど、そのですね…」
「はい、先生。私思ったんですけど、偉そうに語ってる孟子とかいう人。下々の人を虫けらとしか思ってないんじゃないでしょうか?。こんな非人道的な人間が言った言葉を真に受けて、逃げた兵士が悪いと決めつけて、ダメな二人の例えみたいに使うのは絶対に間違ってると思います」
「………」
「はい、先生。じゃあ『五十歩百歩』は戦況を見極められる優秀な兵がいて、その中でも逃げることに特化した100歩の方が優秀だったって話ってことでいいですよね?。あと、負け戦しかやれない上官は無能だし、偉そうに講釈垂れた奴は非人道的な人間だから騙されるなって話ですよね?」
「今の子供は、色々面倒くさいなぁ!。おいぃぃぃっ!!」
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