第21話 約束
早朝、鼓岩で賢太と座っていた。朝日が見たいと言った私を連れてきてくれた。
薄明の頃、市街地にポツポツと明かりが見える。
朝の澄みきった空気は体中を駆け巡り、汗ばみ火照った体を冷やしていった。
身震いした私に賢太はそっとパーカーをかけてくれた。
パーカーからは、賢太の匂いがした。
まるで賢太が側にいるようでドキドキした。
賢太はゆっくりと言葉を選んで言った。
「この前の天神さんで合った絢太君ってさ、知り合い?」
「多分、両親の古い知り合い。ちょっと長くなるけど、話してもいい?」
賢太は静かに頷いた。それから私は丁寧に今までの話をした。
尾道水道の向こう、向島だろうか山際が明るくなってきた。朝日が昇る。
話を全て聞き終えた賢太は、
「なんだか胸が熱くなった。そんなに簡単に誰もが、唯一無二の存在って出会える訳じゃないよな。」
「両親は今も昔も変わらず、お互いをそう想っている。私はそんな両親に嫉妬して、孤独になってたんだと思う。」
「俺も晴陽となら、そんな関係を築いていけると思っている。」
そう言って熱を帯び、朝日に染まった瞳は私を捉えた。
「私、尾道の高校へ編入したいと思っているの。この町でなら、私は私らしく生きてゆける気がする。この夏で、私は前を向いて進みたいと強く願えた。
こんなに何かを強く願ったのは初めてよ。私の背中を押してくれているのは、賢太の存在。」
賢太の大きな手は、冷えた私の頬をとらえた。
「待ってる、晴陽が戻ってくるの。」と優しく言った。
「うん。必ず両親を説得して戻ってくる。」
私達は約束交わした。
夏休みもあと少し、両親から帰宅を促されている。
そんなある日の夕食
「おばあちゃん、私ここに住んだら迷惑かな?ここの高校へ編入したいの。」
祖母は一瞬驚いた顔をして、でも直ぐに嬉しそうな笑顔で
「迷惑な訳なかろう。おじいちゃんのおらんこの家は、一人じゃ寂しいんよ。
晴陽ちゃんが来てくれたら、そりゃ嬉しいよ。大歓迎じゃ。」と笑った。
「じゃけど、ちゃんとお父さんお母さんと話しおうて、賛成して貰ってきんちゃい。
おばあちゃんは待っとるけい。」
「ありがとう。おばあちゃん。」
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