第19話 やっぱりノーカンにしたい魔神と神々の思惑




― ??? ―


“ちょいちょいちょいちょいちょーい!え?ウッソ、死んだ?マジで?”


宙を舞うトントゥ推しの首を見て1柱の神が叫ぶ。


“いやいやいやいや、待って待って。まだ「アンドゥ」唱えてねぇよ!それじゃ発動しないって魔法…”


“あっちゃ~~~~☆やっちゃいましたねぇ~、ウロス氏ぃ~…乙!☆”


愕然がくぜんとする魔神ウロスに声をかけるのはどこか嬉しそうな声をあげるトントゥの主神、賢神ライラだ。


“ボクの推しを盗るからそういうことになるんだぜ?あーあ、いい子だったのに、本当に残念☆”


賢神ライラの声からは微塵みじんも残念さが感じ取れない。状況を見て青ざめる魔神ウロスの様を喜んでいるかのような口ぶりだ。


“うるせぇ、元を正せば俺様の推しだろうが、興味なかったくせに”


“ぶっぶ~!その大元を辿たどれば結局、ボクの子ですぅ~”


噛みつくウロスをあおるように賢神ライラは意地悪く言い返す。


ど正論過ぎて反論が難しい。


遠く離れた地にいる魔神ウロスに彼女の顔は見えないが、恐らく舌を出していることだろう。


“はいはい。喧嘩しない喧嘩しない。そこ喧嘩するとまた人間たちに影響出るでしょ。…んで、どうする?ルール的にはこれで「女神のサイコロ」全滅ってことになるけど、このキャンペーン終了?”


そこに入ってくるのは神の中では比較的面倒見の良い獣人の主神、獣神ブラムだ。


“いや、待て待て。ヴァルにゃん生きとるだろうが”


“ヴァルにゃん!”


“ヴァルにゃんと聞きまして☆”


“ヴァルにゃんかわゆす”


会話に割って入った火神グレアムの“ヴァルにゃん”というワードに反応し、黙って聞き耳を立てていた神々が色めき立つ。


“いいよなぁ、ヴァルにゃん”


“キャラ立ってるよね。ぬふふふ☆”


“ね、エルフってことにしてあたしが推してもいい?”


“ざっけんなよ、駄目に決まってんだろうが、リベカ。つか、おめぇの推しも生きてるじゃねぇか!!”


推しのドワーフとヒューマンのハーフ、ヴァルナの種族をこっそりと変え、推しにしようとする森神リベカを火神グレアムが怒鳴りつける。


“そりゃ、ヘレナはここまで大事に育ててきたもの。ルッカもいるし、あたしはまだ楽しめる~”


“どっちも闇落ちしてるけどな。…ひょっとして、エルフって病みやすいのか?”


“あー…わっかりみ~。プライド高いから心がポキっといきやすいんかねぇ☆”


“いや、コイツの場合は病んでるから病んでるヤツにかれるんじゃねぇ?”


“アンタ達、ぶっ殺すわよ?!特にグレアム!誰が病んでるって?!”


森神リベカが同卓にいる神々を怒鳴りつける。


遠くから飛んでくる大音量の怒声に顔をしかめながら魔神ウロスは“あのよ”と口を開く。


“ノーカン…にできねぇかな?ほら、タイミング的にはギリ、間に合わなかったけど、一応『アンドゥ』唱えてるしさぁ”


“ヤ・ダ☆ボクは断固拒否する。メリットないしにゃ”


“そういうなよ、お前の元推しだろぉ~?”


即答する賢神ライラに魔神ウロスが食い下がる。


“ならユージン推しを返してくれるぅ?”


“それは無理だが…”


“なら交渉決裂。ボクの推し、「女神のサイコロ」にはいないし。メリットな~し。残念でした~☆”


賢神ライラはにべもなく断る。


“俺は別にいいけどね。ベステル推し死んじまったしなぁ”


剣獣ベステルを推す獣神ブラムは魔神ウロスの「ノーカン」発言に賛成する。


“あたしもアンドゥしたらルッカの身体が戻ってくるし、悪くはないかな”


ルシアによって肉体を破壊され、ひよこのぬいぐるみに「憑依ポゼッション」で乗り移った推しのことを考え、森神リベカも同意する。


“俺のヴァルナはまだ元気だ!”


火神グレアムは一人だけ推しを失っていないことを自慢げにアピールする。


”“”“…………”“”“


その場にいた4柱はそれを黙って無視した。


“ところでアマイアちんは?”


賢神ライラが会話に参加しない女神について言及する。


“あー、アイツはなんか部分的に復活してるから不参加”


真面目な獣神ブラムが素直に応える。


“はぁ~~~~!?なにそれ、ズルくね?”


“”“”お前が言うな“”“”


女神アマイアがすでに人間の世界に顕現けんげんしていると聞いて魔神ウロスが不平を言うが、すでに人間や魔物に己の力を分け与えまくっている彼に対し、他の神々が声を揃える。


ユージンの魂の3分の1がすでに手中にあるのだから無理もない。


“…で、どうすんだよ?ブラムとリベカは賛成、俺とライラは旨味なし。アマイアは100%お前の意見には反対、だぜ?お前ら入れると3対3だ”


火神グレアムが魔神ウロスに問う。


“6柱の意見が真っ二つに分かれた時にはダイス、っしょ?やっちゃう?”


森神リベカが声をはずませ、ダイスの目で決着をつけようと提案する。


“…”


それを聞いて魔神ウロスは黙り込んだ。


ダイスを振れば一瞬でどちらかの意見が決まる。


50%の確率で魔神ウロスの主張は通る。


だが、それは賭けだ。


人類の行く末を左右するあまりにも無責任な賭け。


人間たちからすれば、まさに神の気まぐれで大きく歴史が動く。


“ウロスン、キミはそれでホントにいいのかにゃ?”


賢神ライラのわずかに笑いを含んだ声が魔神ウロスに問いかける。


もちろんいいわけがない。


せっかく1300年以上も時間をかけて気づいた最高の舞台だ。


それがこんな形で幕を閉じていいわけがない。


だが、賢神ライラの言葉の裏にユージンの含まれる要求返還に応えるわけにはいかない。


“グレアム”


“あん?”


魔神ウロスの声掛けに火神グレアムが応じる。


女神アマイアくそ女神とも賢神ライラいじわるオタクとも交渉ができない以上、交渉するならこの神自己中野郎しかいない。


“お前はあの娘が大火傷を負って、腕を失って、今まさに殺されかけているこの状況で―――本当にいいのか?”


“はっ”と火神グレアムがそれを鼻で笑い飛ばす。


“俺のヴァルナ推しが世界を救う英雄になる。それだけの話だろ?ぶっちゃけ俺にとっては皆で勝つか、ヴァルナ1人で勝つか、それだけの違いだ。確かにあの美しい容姿は竜の炎で焼かれたが―――”


火神グレアムは一呼吸置く。そして…


“―――隻腕せきわんに火傷の英雄。厨ニちゅうにスピリットを刺激されるだろ?超かっけぇからいいじゃん”


“…お前なぁ、今日びその発言はコンプラ的に、だな…”


獣神ブラムが慌てて火神グレアムの発言を止めようとする。


“あ?そう?…まあ要するに、だ。俺のヴァルナ推しはこのままの進行でなんの問題もねぇってことだ”


火神グレアムは咳払いをして、今のところ特例を認めるつもりはない、という立場を明確に示す。


神々は場の空気が張り詰めていくのを感じた。


基本的に神々は己の欲望に忠実だ。


全ての事象は楽しい方へ流れる。


火神グレアムの推し、ヴァルナが一人勝ちする―――火神グレアムはそういう見解なのだ。


自分のしが順調であれば、わざわざ他の神々の推しの味方をしてやる必要はない。


魔神ウロスは火神グレアムの投じる票を自分側に引き込むことは不可能だと悟る。






“…しゃーねぇ、わかったよ”


たっぷり間を置いて魔神ウロスは口を開いた。


面白くはないが、結論は出さなければならない。


“じゃあ、こうしようぜ”


そういうと魔神ウロスは他の神々が食いつく提案を始めた。


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