第10話 修行に明け暮れる日々で

最初はどうなるかと思われた修行も2年目を迎える頃には一日のリズムが出来てそれなりにこなせるようになって来た。

料理のウデは・・・・

・・・修行をはじめた頃より格段に上がっていると思う。

もちろん毎日、神様の顔を思い浮かべて料理している。

けれど・・・ 

思い浮かべた神様の顔と実際に食べてる時の顔が同じになる事は殆どなかった。

まだまだ修行が足りないという事なんだろうか?


俺がいつもの様に集中して“神の秘伝書”を読んでいたら、不意に神様から声をかけられた。

神様の傍らには俺より少しだけ幼く見える女の子が居た。


「翔、悪いがこの娘としばらく一緒に居てくれないか?一緒に居てくれればいいから・・・」


「神様?この娘はいったい・・・?」


「この娘の両親が亡くなってしまってな・・・ 誰かが預かって育てなくてはならないのだが・・・」


「ココで育てるという事ですか?」


「すまない! 預り先が見つかるまで頼めないだろうか?」


「この娘は自分の事は自分で出来るのですよね?」


「あぁ 大丈夫だと思う。」


「私の修行の邪魔にならなければ大丈夫です。」


「それじゃ〜 わるいがヨロシク頼む。」


神様と離れた女の子は少し不安そうに俺を見つめた。


「俺は青木翔、十二歳だ。君の名前は?」


「私は木村紗衣、十歳です。」


「そうか・・・ 紗衣ちゃん、一緒に遊んであげたいけど俺は修行中なんだ。一緒に居るのは構わないけど、あまり構ってやれないと思う。いいかな?」


「ウン、誰か傍に居てくれる人がいれば・・・ 今はそれだけでいいよ。」


紗衣からは涙が溢れ出ていた。

十歳で両親を亡くして、頼れる人も無い。

今まで気丈に振る舞っていたが十歳の女の子だ。

心細かったに違いない。


「紗衣ちゃん、俺も両親が居ないんだ。一緒だね。ココでは俺の事、兄貴だと思ってくれていいから・・・ ちょっと頼りない兄貴だけどね。」


「ありがとう、翔お兄ちゃん。」


紗衣は俺に抱きついて来て、俺の胸で泣いた。

俺もつられて泣きそうに・・・

俺が泣いててどうする?

今は紗衣の為に出来る事を頑張ろう。


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生贄の人 アオヤ @aoyashou

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