第5話 仮想世界
気がつくと俺は知らない街に立っていた。
目の前には、でっかい
“雷門”と書かれている。
後ろは開けた広場みたいになってる。
俺は広場へ2〜3歩踏み出した。
右から左へ鉄の塊の箱の様なモノがすぐ目の前を通り過ぎた。
「うぁっ?」
俺が驚いて後ろに退くと、ガタイはいいけどどことなくなよなよしている大男に接触した。
「翔様、ソコは自動車が通る車道という場所です。危ないので歩道に居てください。」
「えっ誰? どちら様ですか?」
「翔様、私が街を案内をさせていただくセバスチャンです。何でもお申し付けください。」
セバスチャンは俺に対して軽く頭を下げた。
この人がセバスチャン?
思っていたのと違うんだけど・・・
「分かりました、セバスチャンさん。今日はよろしくおねがいします。ところでココは何処なんですか?今の鉄の箱は・・・?」
「ココは今から約百年前の東京、浅草という場所です。今、翔様の前を通り過ぎたのは当時の人の移動に使われていた自動車というものです。」
「これ、人が乗って移動するモノなの?人が運転しているって事?」
「当時はそうでした。でも、いま動いているのは機械が創り出した映像の様なモノです。」
「この妙に奥行きがある世界は創られた映像って事?」
「そのとおりです。翔様が動いたら動いただけ映像も変化します。翔様が神様に被らされたVRゴーグルに実態のようにこの映像が映し出されています。」
「それって移動したら風景が変わっていくって事ですね。」
「ハイ そろそろ移動しましょうか?」
俺はセバスチャンに連れられて“仲見世商店街”と書いてある通りを進んだ。
「セバスチャンさん、俺達はどこへ向かっているんですか?」
「まず、浅草寺という場所へ移動して、そこでこの世界の神様をお参りします。そして浅草駅から電車でスカイツリー駅に移動します。翔様が面会予定のミウ様は世界一のタワーであるスカイツリーにいらっしゃいます。」
「分かりましたセバスチャンさん。」
俺はセバスチャンに遅れない様に先を急いだ。
「到着しました翔様、ここが浅草寺です。さあこの世界の神様にお参りして、ミウ様のところへ行きましょう。」
俺達は浅草寺の入口でお参りしてこの世界の神様に挨拶をし、もと来た道を歩きだした。
境内には沢山の鳩がいて、俺達が近付くと一斉に飛び立っていった。
ここまで暫く歩いて来たが人とすれ違う事は無かった。
「セバスチャンさん、ここに来るまで誰ともすれ違う事がありませんでしたが・・・ この世界にもう人は居ないのですか?」
「ハイ翔様、この世界にもう人は居ません。ミウ様だけが人と繋がりを持つ唯一のAIです。ミウ様は大水害を体験しています。ミウ様に大水害についてお聞きしたら良いと思います。」
セバスチャンと話しをしているうちに浅草駅に着いた。
当然、駅には誰も居ない。
だか、駅のホームには電車が入ってきた。
8両編成の車両は当たり前のように扉を開く。
俺はセバスチャンの後について電車に乗り込んだ。
扉はゆっくり閉まり、電車は走り出した。
間もなく大きな川が見える。
橋の上を大きな音をたてて、少しずつスピードがあがってくる。
川の反対側には金色のモヤモヤとしたオブジェが見えたが、ビルの影にアッという間に消えてしまった。
営みが消えた街に列車がレールのつなぎ目を超えるガタンガタンという音だけが響き渡った。
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