第12話 輝石を胸に
ささやかな背後の泣き声が消えてから数十分後、今度は微かな寝息の音が伝わっていた。もうそろそろ桐葉は寝ついただろうか。俺は音を立てないようにゆっくりと状態を起こし、そのまま横を振り向く。
「桐葉が自分から心を開いてくれないのなら、もうこれを使うべきなのかもしれないな……………」
上着のポケットから取り出した輝石を見つめながら、俺はひっそりと呟く。輝石は窓から入った月光を反射して、少し儚げな美しい光を放っていた。
この力を使って、遥に使用した時のように精神世界に入ることができれば、直接桐葉の気持ちに触れて状況を一気に改善できるかもしれない。いきなり心を開かせるのは抵抗があるが、一人で深い悩みを抱え続ける桐葉にはこの方法しかない。どんな手段を使っても、やり遂げなければいけないのだ。
俺が意気込んで両手のひらで固く握ると、逆摩尼は微かに熱を発し、その神聖さを実感させる。今更ながら、桐葉の内面を覗くことに一種の恐怖と不安を感じ、力み過ぎた両腕は震えが止まらなくなっていた。
大丈夫。桐葉は本心を言葉に出して伝えることができないだけで、他人との接触を拒否しようとはしていないはずだ。それに俺はこの2ヶ月間、義理とはいえ家族として過ごしてきたんだ。多少強引なことをしたとしても、優しい桐葉ならきっと許してくれる。だから、大丈夫だ……。大丈夫、大丈夫………。
自分で自分に洗脳をかけながら、俺は妄信的な自信へと堕ちていく。……絶対に、成功する。絶対に、大丈夫だ。完全に頭を騙し切り、俺は思い切って桐葉の胸の前に輝石をかざす。すると、逆摩尼は光を更に強くして、病室には異様な輝きが満ちていった。
………おかしい。遥の時はこんな刺すような強烈な光ではなかったのに……、一体なにが………。
止まることを知らず、上限なしに強くなっていく光から儚さが失われて、代わりに怪しいけばけばしさが濃ゆくなっていく。未だ経験したことのない現象に俺は狼狽し、なす術もなく意識を手放す。そして、ヒューズが切れるように真っ暗になった後、次に視界を満たしていたのは漆のような黒一色だった。
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