第2話 緊急連絡
「みんな、遅くなってごめん!! 俊を探してたら時間がかかっちゃって。……て、悠斗しかいないじゃない。今日は新生隷属部誕生記念日だっていうのに、どういうことなの? お祝いムードだったのになんか萎えちゃったわ……」
部員が勢揃いした姿を想像して、扉を力一杯に開け放った遥は、予想を裏切る閑散とした部室にがっくりと肩を落とす。それに対して、唯一待機していた悠斗は頬杖をつきながら不満そうな目つきでこちらを睨みつけていた。
「美琴はお前らが来るのが遅すぎるから、やり残した仕事を処理するって生徒会室へ帰ったんだよ。まあ、予定より50分も遅れてるんだ。仕事の出来るアイツに、何もせずにじっとしてろってのも無理な話だろうな。……というか、ここまで一人で根気よく待ってるほうが異常だろ。なんなら、部長自ら称賛してくれてもいいんだぞ?」
「ワー。スゴーイ。ユウトクン、チャントマッテテ、エラーイ………。はい。じゃあ、これで全部チャラね。本っっっ当、悠斗だけしかいないなんて、張り切って損したわ!!」
「チャラになった瞬間に、またとんでもないマイナスになったんだが……。というか、まずチャラにもなってないし………」
吐き出した不満を倍返しにされ、ぶつぶつと呟くしかない悠斗には目もくれず、遥は颯爽と部室に入る。しかし、急に立ち止まったかと思うとあたりをしきりに見回し、不思議そうな表情で再び悠斗に近づいた。
「……そんなことより、桐葉ちゃんはいないの? 今、部室にいないってことは………。まさか、私達を探しに行っちゃった?」
「いや、少なくとも俺が部室にいる間は、美琴以外誰も来てないな。てっきり隷属部の誰かと一緒に行動してるとばかり思ってたんだが…………。お前達はなにか知らないのか?」
悠斗からの問いかけに俺と遥は大きく首を横に振り、その後すぐに一つの疑念に襲われる。そして、その疑念は一瞬のうちに不安や憂いに置換されて、それぞれの心内で膨らんでいった。
「珍しいわね……。桐葉ちゃんならどんなに遅くても約束の時間の10分前には集合してるはずなのに。用事でもできたのかしら………。なにかに巻き込まれてなければ良いんだけど………」
「桐葉が……。一体何が起きたんだ……」
いつもは誰よりも完璧に物事をこなす桐葉だけに、たった一つの遅刻でも異常事態のように感じてしまう。この改変世界では、いつ何が起こるか分からない。そんな事実を身に染みて実感しているからか、俺と遥は特に深刻な顔をしてひたすら心配し続ける。するとそんな鬱屈とした雰囲気を掻き消すように、廊下から勢いのある足音が響き渡ってやってきた。
「この元気な足音は……、桐葉ちゃんじゃないか? 良かった。ただの遅刻か………」
「いや、良くはないでしょ。全く、桐葉ちゃんたら大事な日に限って遅刻なんかしちゃって。私が部長としてきっちり言っとかないといけないわね!」
50分も遅刻した張本人は開き直って厳しい内容を口走るが、その表情は安堵一色に染められていた。俺も緊張の糸が緩まって、溜息とともに椅子に座り込む。そして扉が開かれる瞬間には、部室内は遅れてやってきた仲間を迎え入れるために和んだ雰囲気を取り戻していた。
「来たわねっ! 桐葉ちゃん、こんな時間までどこほっつき歩いてたの? 今日は大切…………。の、野坂先生? そんなに慌てて、何をしに来たんですか?」
予想を裏切り、突如現れた野坂先生は真紅のジャージを上下させるほど呼吸を乱し、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「……緊急連絡だ。一条。お前の妹が倒れ、救急車で搬送されたと連絡があった。現在も意識は戻ってないらしい。今すぐ私と病院に来い」
緩み切っていた顔からは一気に血の気が引いて、再び最悪な妄想が頭の中に広がっていく。俺は次の言葉に耳を貸すことも、冷静に考えることも忘れて、無我夢中で廊下に駆け出していた。
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