第83話 一緒に過ごしたい人を

 5月31日。タイムリープを使わずに一週間を過ごして、俺達はやっとこの日までたどり着いた。今日は定期テスト明けの生徒会・職員会の合同会議。遥の予想では、ここが現状俺達が辿り着ける最終地点だ。ここまで事あるごとにやり直しを強制されて、やっとたどり着いたは良いものの、何も達成感は感じない。むしろ、再び現実の冷酷さが押し寄せてきた気分だった。


「全く……、部員は集まらなかったわね。特にテスト期間になってからは、全くチャンスが無かった………。これじゃ、どの地点からやり直しても無理な気が………。ああ、どうしたらいいの……?」


 二人きりの部室で遥は机に突っ伏して、かれこれ30分ほどは絶望に打ちひしがれている。まあ、一人で悩みを抱えるよりは全然良いんだが……。部員としてはもう少し元気を出して欲しいものだ。俺は遥の右隣の席に座り、軽く頬杖をつきながら暗い現実を忘れさせようと声を掛けることにした。


「どうした? 一週間はあんなに元気だったのに、随分疲れたみたいじゃないか。なにか悩みがあるなら、相談に乗るぞ」


「なに……? 急に優しい口調で話しかけてくるなんて、私そこまで疲れてるように見えた?」


 俺が黙って頷くと、遥はハッとしたように起き上がって、不自然に口角を上げる。それでも俺を見つめる目は少しくすんで、死んだ魚のような目になっていた。俺は呆れるように笑いながらそっと頬杖を外して、


「そんなに焦る必要もないだろ。これで期限の端まで行けば、あとは自由自在に時を操作して部員を見つけるまで続けるだけじゃないか。まあ、多少は時間はかかるかもしれないが、もう少しの辛抱だ」


「そうよね……。あと少しの辛抱……、か……。はぁ……、あと少しね…………」


 励ましの言葉にも、遥は気分が上がらなかったようで、また机に突っ伏してしまった。どうやらこれはどうにもできなさそうだ。俺は諦めて、遥と同じように顔を机の天板に近づける。すると隣から、耳を優しく撫でるような囁き声が響いてきた。


「私ね……。一週間前に隷属部が集まった時、想像の何倍も嬉しかったの。私には、こんな素晴らしい仲間がいるんだって思ったら、部活動がしたくてたまらなくなって………。だから、早く終わらせたいなって……、思ったのよ」


「……遥の気持ちも分かる。俺も早く抜けたいのに、なかなか終わらないのが辛くてたまらない。でも、考えてみろ。これから一緒に部活を続けるのは、俺達だけじゃない。新入部員ともずっと活動していかないといけないんだ。だからこそ長い時間を一緒に過ごしたいと思った人をしっかりと選ばないと、先に進んじゃダメなんじゃないか?」


「長い時間を一緒にね……。これから、隷属部の活動を一緒にやりたいと思える人……。私にそんな人、いるのかな………?」


 顔を上げると、遥はいつの間にか立ち上がって深い思考に入りながらグルグル歩き回っている。どうやら遥のやる気と集中力は、完全復活を果たしたらしい。俺は健気に考え続ける遥の姿に笑顔を向けると、期限の端に備えて再び顔を下に向けた。

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