第82話 一致団結!

「遥さん。謝らないでください。私達も遥さんのことを疑って、しつこく聞いてしまってました。ごめんなさい……。二人の関係性がぼんやりとしていてはっきりと分からなかったから、不安になってたんです。でも……、遥さんの話を聞いたらようやく分かった気がします」


「そうだな。遥がここまで悩みに悩んだのも、一条の不可解さのせいだったってことか。でもそれも解決して、仲間として認められたんなら何も問題ない。……部長の不安も無くなった今、俺達はやっと心から協力し合えるようになったってわけだ。まあ……、次は部自体が無くならないようにこれから頑張らないといけないけどな」


 悠斗と桐葉は予想を裏切る前向きさで遥の覚悟を全面的に受け止め、それを更に増幅させる。俺は今になって、遥が過去に逃げなかった目的を理解していた。いくら時を遡って何度もやり直したところで、大切な人に向き合わず逃げるだけでは何も変わらないことを彼女は理解していたのだ。


 そうだ……。この不可解な世界に放り込まれて、色々と不明な部分は山ほどあるが、今ここにいる全員は大切な仲間だ。例え理解できなくても、疑う気持ちが少しあったとしてもそれでいい。今から逃げずに、暫定的でも確かな信頼を作っていくことが、未来を切り開く唯一の方法なのだから。だから俺は……、目の前の背中を見守り続ける。ゆっくりと歩みを進め、俺は前の二人とともに部長を囲む小さな円を作る。近づいた遥の背中には、漂っていた自身が固められて少し残った不安や戸惑いはほとんど残されていなかった。


「みんな……。随分待たせちゃったわね。でも、私はもう逃げないから。この先何があったとしても、私は絶対諦めない。何度も何度も挑戦して、課題でも試練でも全部乗り越えてやるわ。だけど……。それでも心が折れそうになった時は、私に力を貸してちょうだい!」


 遥が勢いよく顔を上げ、意気揚々と宣言すると、全員は黙ってそれに頷いた。独断偏見、疑心暗鬼の単独行動が終わり、新緑が終わりかけの季節にやっと部が一つにまとまった。その遅れてやってきた充足感で、大声で喜びはしなかったが、胸に更なる温もりが宿ったのは当然のことのように思えた。感傷深い感情に数秒ゆっくり目を瞑る。すると力いっぱいに校舎二階の角の窓が開き、ひと時の静寂をかき消すほどの勇ましい声が耳に飛び込んだ。


「おい! お前たち、一体いつまでそこに突っ立っているんだ! 部員の勧誘に必死になる気持ちも分かるが、そうやって授業を疎かにするようなら私は顧問を辞めさせてもらうぞ!」


 久々に見た野坂先生は相変わらずのジャージ姿だったが、前よりも怒りに満ち溢れていて腕組みをしてこちらを睨みつける様子は迫力に溢れていた。しかしその中に潜む可愛らしさを知る俺達からすれば、それほど怖いものでもない。遥は先生の呼びかける声を合図に部長としての逞しさを込めて、右腕を天高く突き上げた。


「よーーしっ! じゃあ、みんな。新制隷属部最初の部長命令よ。全速力で、教室まで走り抜けなさい! 行くわよ。よーーい、ドンッッ!!」


 遥が高く掲げた腕を思いっきり振り下ろすと、俺達は自分の出せる全力で校舎へと走り去っていく。登校時間が終わって静かだった学校には、隷属部の疾走を応援するように最後の春風が吹き始める。爽やかな風の音の中、心音と期待は大きくなって、ここから先の未来を体験できる喜びを俺は噛み締めていた。

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