第81話 タイムリーパーの失言2
顔に帯びた熱はすぐに脳の中心まで伝わり、俺は完全に理性を失って動揺しきっていた。それでいえば遥もほとんど同じ状態だったが、俺よりも早く真の失言に気付いていたからか、すぐに判断を下して近づいてくる二人の前に立ちはだかった。
「二人とも、少しは落ち着きなさい。私とい……、俊が下の名前で呼び合うことの何が不満なのよ?」
「不満は全く無いんだが……、単純に気になるだけなんだ。最初は名字でしか呼び合わなかった二人がどんな過程で名前呼びに変わったのか。それが聞きたくてしょうがないだけなんだよ。桐葉ちゃんもそうだろ?」
「はい! 全くもって同じです! もともとそこまで仲が良かったわけでもなかった二人がどうしていきなり距離が近くなったかなんて、誰でも気にはなりますよ。しかも、それがおにいと遥先輩なら尚更です……!」
二人はとてつもない熱意と圧力で、遥の元へと押し寄せる。しかしなぜか遥は手を叩いて光を呼び起こすことはせず、少し俯いた後、再びまっすぐ前を見据え直した。
「二人の気持ちもよく分かるわ。私だってなんでこんなことになったのか不思議でたまらないくらいだもの。でもね……、全てをあなた達に打ち明けることはできない。それだけは譲れないの。誰にだって、全部簡単に話したくないことだってあるから……。それだけは理解しておいてほしいの」
逃げることもせず、正々堂々と向き合って本当の気持ちを明かす遥に、悠斗と桐葉は口を閉ざしてただ耳を傾ける。五月の風にたなびく後ろ髪と、これまでの周回でより頼もしくなった背中は、先に進む覚悟で溢れているように感じた。
「私は……、俊のことを警戒してた。いつも何を考えてるか分からないのに行動力だけはあって、一人でひたすら悩み続けてるから、初めは全く信用できなかった。……でも、少しずつ話していくうちに、その行動がみんなのことを思ってしてることに気づいたの。自分には理解できないことだとしても一生懸命考えて、立ち向かって、それを乗り越えようとしてる姿を見て、私は俊のことを仲間だと思えるようになった。名前を呼べるようになったのも、私が一条俊っていう人間のことを信じられるようになったからだと思う。でも、それをみんなにすぐ言えなかったことは悪かったと思ってる……。部員を信頼してなかったなんて、部長としてやっちゃいけないことだから、みんなに伝えづらかったの。本当に……、ごめんなさい…………」
溢れる思いをそのまま言葉に変えた後、遥はまっすぐに頭を下げる。責任を果たした細い背中が折れ曲がると、安心と温もりを取り戻した部員の笑顔が現れて、すぐに頭を上げさせようと部長の元へと駆け寄った。
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