第80話 タイムリーパーの失言1
俺達は行ける限りの未来に足を下ろした。とはいっても、それは期限の端からは程遠い5月24日の朝。遥は数秒周囲を見渡すと、躊躇なく俺の近くへと歩み寄ってきた。
「朝、校門にいるってことは、海デートに行く少し前の場面みたい……。何度も繰り返しすぎてよく分からなくなってたけど、まだまだ期限まで一週間もあるのね」
「確かにそうだな。冷静に考えれば、俺達は最終通告の次の日に顧問の先生を確保していることになるのか。根拠は無いが……、行ける気がしてきた……」
俺と遥はまた沸き上がってきた可能性に心を奪われて、ぼんやりと今後の展開に思いを馳せる。そんな二人を不意打ちするように、背後から両手のひらが俺達を全力で押し出した。
「……よう。不機嫌な遥を任せて少し心配だったが、全く問題なかったみたいだな。なんなら機嫌が良くなってるし……。一条、お前どんな手を使ったんだ?」
よろめいた身体を立て直して振り向くと、腕を組みつつ安心したように表情を緩める悠斗の姿が目に映る。俺はこの場面の状況を思い出しながら、不自然に間が空かないようにと深く考えもせずに言葉を捻りだした。
「どんな手を使ったも何も………、俺は遥と普通に話しただけだぞ。ところで、お前は何をしに来たんだよ?」
「は……? 一条、お前……。何を意味の分からないことを言ってるんだ?」
「え? 意味の分からないことって一体…………。あ…………」
やってしまった。この場面は悠斗に桐葉のことを頼み、俺が遥と話し合った直後。それにも関わらず、悠斗のことを忘れるような発言は明らかに不自然だ。これは……、明らかな失言だ………。
俺は自分の失敗を確認しようと、念のため首を横に向けて遥を見る。……案の定、タイムリーパー仲間は顔を真っ赤にして、既に激しく動揺しているようだった。
「い、一条……。あんた、なにやってるのよ………!」
「ああ……、すまない。でもまだ、そこまで焦る必要もないだろ? だから、遥も俺をフォローして―――」
「ああっ!! また言った! 悠斗さん、今度は間違いなく言いましたよ。この少しの間で、おにいは遥さんのことを下の名前で呼ぶようになったんだ!」
悠斗の身体の陰から桐葉は勢いよく飛び出して、少し悔しそうに眉の付近の筋肉を強張らせながら俺を指さす。そして悠斗も心なしかほろ苦い表情で、追及の勢いに同調してきた。
「二度も間違いを犯したということは……、その呼び方が完全に定着してるっていう証だよな? なあ、一条。ここで遥と何があったのか、じっくり聞かせて貰おうか…………」
「私も……、おにいの話が聞きたいなぁ………。だから全部、知ってること全部教えてよ……………」
二人は言葉以上の圧力を醸し出しながら、こちらへとにじり寄って来る。俺は後悔で頭を膨らませながら、助けを求めるように遥へと目を向けていた。
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