第79話 水蓮寺遥と、繰り返す
「どう? これは、更に予想外だったんじゃない?」
真上には満足そうに微笑む遥。俺達は解放祭の朝から、忘れもしない二人だけの夕方まで一気に時を飛び越えたのだ。そんな事実の衝撃性に、俺は愕然とする。しかし、元々この時間軸に来る準備をしていたためか、体は勝手に膝下から反射的に跳び起きていた。
「これは普通に驚くだろ………。時を遡るだけでも十分なのに、未来にも自由に行けるとなると………。本当になんでもできるんじゃないか?」
「なんでもはできないわよ。未来に行けるっていっても、当然制限はあるわ。私が行けるのは、自分が経験した時点まで。……だから、正確に言うと過去から現在に戻れるようになったって感じね」
まるでなんでもないことのように、凄まじい能力を明かす遥。あまりにも淡々とした態度に内心押されながらも、冷静さを保つように意識する。しかしそれでも気を乱していた俺は、夕陽に照らされた部室のカーテンに目を逸らして、なんとか落ち着きを取り戻した。
「まぁそれでも…………、やり直しをする上では強力な能力だ。余計な所は飛ばして、気になるところは何回も繰り返すことができるなら、部員探しも簡単に解決できるかもな」
「そうよ。なんだかんだいって、私達はずっと同じ期間に閉じ込められてるから、さっさと抜け出さないと……。だから、俊にはこの能力の活用方法を考えてほしいの」
「なるほどな……。ちょっと考えてみるか」
遥は真剣さと期待が合わさったようなワクワクした表情で、俺の熟考する姿を見つめてくる。そんな気持ちを裏切ることがないように、俺はあえてアイデアを簡潔に仕上げ、確実な計画を立てることに全力を尽くした。
「遥の能力を効率的に利用するためには、移動できる範囲を最大化する必要がある。つまり俺達がまずするべきなのは、期限の端まで行って可能性を探ることだ」
「……なにそれ? ちょっと単語が難しくて理解できないんだけど。もう少し分かりやすく説明してもらっていい?」
「要するに……、まずは隷属部廃止の期限の日まで過ごすべきということだ。全ての期間を見て、その中で部員候補がいる可能性が高い部分を繰り返すのが一番手っとり早いだろ?」
「……ああ、そういうこと! なんだ。言い回しが複雑すぎて、物凄く壮大な作戦だと思ったけど、割と単純なのね。そうとなれば、さっさと終わらせちゃいましょう!」
そう言って遥がぱんっと手を叩きながら、朗らかに笑うと再びあたりは異空間に包まれる。本当に……、これで終わりにしないといけないな。もはや名残惜しさも無くなった虹色の空間で、俺は最後の決意を固めつつ、力強く瞼を閉じる。
水蓮寺遥と二人きりの繰り返しは、とうとう佳境に入ろうとしていた。
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