第70話 二人目の遥1
深い山奥にひっそりと佇む紅の社。普通の神社に比べてそこまで立派なものだとは言えないが、なぜか目を引き付けられるような不思議な雰囲気が漂っているように感じた。
「ここは、
昴弥さんが指さした先には、本殿の小さな扉の隙間から虹色の光が漏れ出しているのが見えた。あの光には、見覚えがある。何度も何度も包まれて、もはや忘れようもない特別な光だ。俺は自ら本殿に向かって歩みを進める。近づけば近づくほど、光は急かすように点滅し、一層輝きが強くなっていった。
本殿は、教科書で見た平安時代の貴族の邸宅のように全体を綺麗な朱色で塗られ、漏れ出した光を反射して全体が赤く輝いていた。流石に土足で上がるのは躊躇われたので、俺は丁寧に靴を脱いでから、ゆっくりと小階段を上っていく。そして、目の前に光を放つ扉が現れたところで、俺は最後に昴弥さんに目を向けた。
「俊君……、大丈夫だ。ここまでビビらせておいてなんだが、アイツはそこまで悪いやつじゃない。君が迷わず立ち向かえば、きっと上手くいくよ」
「ありがとうございます……。じゃあ、開けますね…………」
俺はやっとの思いで扉に手をかける。その瞬間に、虹色の光は先走るように溢れて、いつもの時間逆行と同じような感覚の中、ゆっくりと目を瞑り意識を失った。
「……くん、……ん君、………俊君! 大丈夫か………!?」
「はい……、大丈夫です。昴弥さん、ここは一体…………?」
「ここは、おそらく精神空間だ。とりあえず二人とも無事に入れて良かった。あとは、アイツが出てくるのを待って、俊君にーーー」
昴弥さんが話し出そうとすると、暗い闇の向こうから大きく手を鳴らす音が遮った。すると、一面の闇が一気に消え去り、周囲は光に包まれる。そして、音が鳴った方向には立派な椅子が現れ、そこには見慣れた少女が腹立たしそうに腰掛けていた。
「全く……、昴弥は相変わらずごちゃごちゃとうるさいな。お前は一条俊をここに連れてくるだけの役割のはずだ。それをまあ……、染みったれた雰囲気で長々と………。私はもううんざりだ……!」
「遥……? どうして、遥がそこに? なんで、こんな場所にいるんだ?」
巫女のような紅白の装束に身を包み、鬱陶しそうに肘掛けにもたれる少女の姿は水蓮寺遥そのものだった。思わず俺は戸惑いと動揺で、頭がいっぱいになる。その様子を見て、遥の姿をしたなにかは満足そうに薄ら笑いを浮かべた。
「おお、おお…………。感情が揺れ動いているな一条俊。やはり、この姿に変化して正解だったか……。うざったい昴弥も、この姿になればごちゃごちゃ言ってくることもないし……、なにより二人の心を掻き乱せるのだから最高だな!!」
「「………………………」」
俺と昴弥さんは目の前の少女に翻弄され、ただ眉をひそめながら黙ることしかできない。そしてそのまま少女は更に上機嫌になり、遥の外見に似合わない豪快な笑い声を上げた。
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