第67話 世界の理を知る男

 突如告げられた衝撃の事実。これまでの展開で混乱していた頭には、処理しきれないほどの負荷がかかり、もはや一人で考えることもできない。混乱のあまり、俺はしどろもどろになりながらもなんとか言葉を出そうとする。


「主人公? どういうことですか? 異変は、これまでに何回も……、あったってことですか? それで……。それで、えっと…………」


「驚いたかい? まあ、とりあえず落ち着いて。まだこの世界のことについて詳しく語らないといけないんだから、こんなことで驚いてちゃダメだよ」


 昴弥さんはゆっくりと話しかけながら、俺に深呼吸を促して落ち着かせる。まだ何が何だか分かる状態ではなかったが、それでも冷静になったフリをして、なんとか正面を向いた。


「さあ、俊君は何を聞きたい? 一般的に言えば、俺はラブコメの主人公と言い張る頭のおかしい男だが、君にとっては違うだろう。まずは、得たい情報を好きなように聞いてくれ。俺が知っている事は全て教えよう」


 また、昴弥さんは意味深な笑みを浮かべる。不思議とこの人が全く嘘をつかず、本当にこの世界について圧倒的な知識を持っている事を、俺は無条件に信用できた。率直に自分が聞きたいことを聞くべきだ。直感的な判断で、俺は迷わず口を開いていた。


「この世界は……、異変はどうして起こっているんですか? 誰が、どんな理由でこんなことをしているのかが、全く分からないんです」


「なるほど、いきなり核心をついたいい質問をするね…………。これを理解するのは中々難しい気もするが……、説明してみよう……」


 昴弥さんは俺の方へ手をかざし、しばらくの間待たせて思考をまとめると、そっと息を吐いて手を組み直す。俺は唾を飲み込みながら、また強く拳を固めた。


「君が異変という改変現象は、もちろんただの人間がやるわけじゃない。改変の力は、人智を超えたある存在が握っている。しかし、その力を発動させるのは普通の人間なんだ」


「……つまり、異変は人間が望んで作り出したということですか?」


「少し違うな。現実改変自体を望んで作り出すわけではなく、自分の望みを叶えるために現実を改変するんだ。だから現実を作り変えた張本人には、その行為が自分の人生を変えるほどのものだとは気づいていないこともある。自分の願いを叶えるために、人を傷つけてしまうことも知らずにね…………」


「それって……。もしかして、昴弥さんも…………?」


 昴弥さんは俺の言葉には答えずに、少し眉間に皺を寄せながら車窓に目を移した。そこから陰鬱にまた数十秒、この世界の理を知る男は笑顔を取り繕うこともせず、真剣な表情で視界に戻ってきた。


「……もう少し、目的地に着くには時間がかかるから、一つ話をしよう。これは、ある少年と少女の話だ」


 目の前には、自嘲と後悔の気持ちが込められた少しほろ苦い表情。そして耳には、ルーフに打ちつける雨音が聞こえ始める。より一層情緒が深くなった車内で、ある物語が語られようとしていた。

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