第59話 ふりだしに戻る
目を開けると、そこには優しい眼差しの少女の顔があった。そうか、帰ってきたのか。さっきまでの光景が記憶から消えていないことを確認してから、俺は遥に声をかけた。
「遥、また最初に戻ってきたな。さっきまでのこと、ちゃんと覚えてるか?」
「ええ、覚えてるわ。良かった……。俊も記憶してるみたいね。二人とも、無事に戻って来れて安心したわ」
二人はもう一度安心したように、互いの瞳を見つめ合う。ふりだしに戻っても、共に乗り越える仲間がいる。それだけでも希望は湧いてくるのに、今の俺にはそれ以上に強力な味方がいる。不確定な希望を超えて、これから襲い掛かってくる問題を絶対に解決するという自信が心の中に満ちていくようだった。
「さて……、これで準備は整ったってことね。俊、これから私達は部員集めに行くわよ。私だけじゃ解決できないから、俊も手伝ってちょうだい!」
「おう、任せとけ。生徒会に隷属部を承認させて、さっさとこのループを終わらせてやる!」
「よーしっ、じゃあ気合い入れていくわよ!えい、えい、おーーーっっ!!」
遥が張り切って右拳を突き上げたところで、扉は勢いよく開け放たれた。まずい、完全に忘れていた。俺は慌てて遥の膝から頭を起こそうとする。しかしこんな時に限って、脳波は足に伝わらず、結果的に俺は膝枕をされながら来訪者を迎え入れることなってしまった。
「水蓮寺さん………!? 大声で叫ぶなんて部室で何をしていたんですか? きゃああっっ!! あなた達は部室で一体なにをしてたんですか!? 不純異性交遊をするなんて、最低……、です………」
「美琴……? なんでアンタが泣いてるのよ? 私達そんなに酷いことした?」
「これは……、泣きたくて泣いてるわけじゃないんです。ただ勝手に涙が………。あぁ……、なんでこんなに悲しいの……?」
冷酷に全否定されると思われた石立が、膝から崩れ落ちて泣いている。予想から大きく外れた出来事に、俺達は呆然としていた。石立自身も、自分が泣いている理由は全く分かっておらず困惑しているようだった。
「分からない、分からないよ……。あああああぁっっ!!」
「遥っ! 今すぐ時を巻き戻すんだ! これ以上は危険な気がする。早く戻せ!」
「うん、分かったわ。美琴……、ごめんね………」
遥が深呼吸をして目を瞑ると、周囲は虹色の光で満たされる。石立はこれまでとは別人かと思うほどに髪を振り乱し、意識の下から湧き上がっているような感情に支配されているようだった。耳をつん裂くような悲痛の声は光で視界を失っても続き、再びふりだしに戻ってからも聴覚に焼き付いて離れなかった。
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