第58話 大事な約束
「はぁ、はぁ………。なんかもう、疲れ果てて一歩も動ける気がしないわ。これが久しぶりのデートだなんて、全く信じられない………」
「全くだ……。こんなことになるなら、遥と勝負なんてしなければ良かった。本当に……、お前はなんであそこまで体力があるんだよ………」
「そりゃあ……、勝負を挑まれて負けるわけにはいかないからよ。でもまあ、今回は勝負はつかなかったけど、なんか色んなものが吹っ飛んだ気がするわ」
長い勝負の末、海から上がった俺と遥はすっかり濡れた制服姿を砂浜に横たえていた。空の端からは暗闇が侵食して、この瞬間も終わりに向かおうとしている。直感的にそれを察知した俺達はお互いに最後の力を振り絞りながら、なんとか体を起き上がらせた。
「もうそろそろ、帰らないといけないみたいね。私、久々に楽しかった。俊、今日は本当にありがとうね」
「俺も楽しかった。遥と正面からぶつかり合って、ついでに自分の気持ちも伝えられて。俺は本当に幸せだった………」
「ばーか。何言ってんのよ。死ぬわけでもないのに、そんな真面目に感謝されても困るわ。そういうのは、本当の結末の時にだけ言ってくれれば十分なの。本当に俊は、加減ってものを知らないんだから」
遥は俺の肩を小突きながらも、嬉しそうに優しい声でそっと語りかける。すると、遥か水平線の向こうから、オレンジがった強い光が徐々に視界を満たしていき始めた。遥は肩に当てた手を後ろに回し、ゆっくりと顔を近づけて、
「ねえ、一つ約束してもいい? 私とあなたがお互いに約束を守り合うの。大切な瞬間の最後だから、しっかりとお願いしておきたいの」
「分かった。遥が言う通り、俺も一つ約束を守るよ。遥のために絶対に守り続ける約束を今ここで決める」
「頼もしいわね。じゃあ、私から約束するから俊もそれに続いて………。お願い」
濡れた制服を気にもせずに、遥は躊躇なく俺を抱きしめる。しっとりと冷たい感触の中には、燃え上がるような強い決意を感じた。俺が遥にしたように、遥は俺に大事なメッセージを伝えようとしている。
「私は……、一条俊を、私の初めての仲間の幸せを守り続けることを誓います。例え自分の心が揺れて、現実と夢が壊れても、私は最後まであなただけは守ります。それが……、私が俊に守るたった一つの約束です」
最後まで言い切った遥の声はかすれて、密着した右耳にしか聞こえないほど小さかったが、俺の心には深く響き渡った。約束は、相手と同じくらいの気持ちをもって返してあげるもの。ふとどこかで耳にした言葉の一端が、脳裏によぎる。その記憶に誘われて、俺はふいに大事な約束を口走った。
幻想的な景色の中で、特別な関係となった二人は満足そうに微笑んだ。たとえこの記憶が消えたとしても、何の後悔もないこの状態に愛しさを抱いていたのだろう。誰にも見届けられぬまま、二人が結んだ約束は静かに世界を駆け抜けて、心の底に光と共に沈んでいった。
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