第52話 光の中、一人流した涙

 虹色の光。その光は私に希望を与え、それと同時に後悔を思い出させる。何度も何度も、その光に傷つけられながら、私は前に進んできた。


 ……でも、光に何度包まれても全く分からないことがある。一条俊。一人きりだった私に衝撃と可能性を与えてくれた人。他の誰とも違う行動と価値観で、自分の心を支えてくれた恩人。その特別な存在は、いつまでも謎に包まれたままだった。


「「俺は先輩に……、早希さんに告白された」」


 彼は夕方の病室で初めて自分の秘密を話した。……嬉しかった。たとえ、その内容が他の女子への好意の告白でも、自分のことを話してくれるだけで幸せだった。



 次に二人きりになったのは、扉が閉ざされた体育館倉庫の中。風が通らない作りのせいなのか、自分の体温は上がりきって、正常な判断はできなくなった。


 でも、そんな時でも彼は冷静で、私をからかうような提案をする。


「「俺とお前がいい雰囲気になれば自然と扉は開くはずだ。たとえば……、キスをしようとするとか……?」」


 ただ、荒れるだけの息と混乱する頭の中。彼が許してくれるのなら、ここで自分が結ばれずに、彼が一番好きな人と結ばれるならキスしたいと思ってしまった。


 結果的にその時はキスをすることができなかった。彼の提案も、最初からその結末が分かってのことだった。………それもちゃんと分かってた。分かってたのに私は、ますます彼から目が離せなくなっていた。



 解放祭は、早希さんが悠斗に告白するために用意した舞台。でもそれが成功すると、彼は不幸になってしまう。絶対にそうなってはいけない。それを防ぐには……、私は何をすればいいんだろう………?


 何百回も繰り返して、私は自分なりの答えを出した。一人でずっと悩んでも、彼のためなら頑張れる。ただひたすらに、私は一条俊のことを想い続けた。でも、この想いは明かしてはいけない。きっとこのことを知れば彼は幸せになれないから、自分の強い気持ちを隠さなければいけない。


 異変を察知できる彼に秘密を明かせなかったのは、自分の気持ちを隠したかったからだったのだろう。最後まで、私はなにも喋るつもりはなかった。それでも……、彼は私の密かな頑張りを見つけてくれた。



「「どうして……、そんなに俺を明るくしようとしてくれるんだ? 水蓮寺はどうして俺にそこまでしてくれるんだよ。それだけがどうしても分からないんだ」」


 花火の計画が知られた後の河川敷で、彼は私に問いかけた。何もかも話したかった。自分の過去のことから、行動の糧となった想いの全てを曝け出したかった。……だけど、それは許されない。せめて解放祭で彼が全てを終わらせてからにしよう。秘密は祭りのあとに。


 そこから私は、解放祭までさらに一生懸命努力するようになった。祭りが終われば、お互いに秘密を全て明かせると思って胸の鼓動が止まらなかった。……でも、そうはならなかった。


「「私……、ずっと一条に支えられてたの。だから、あなたのことを助けたかった。あのね……、私、一条をーーーー」」


 非情にも気持ちを伝える前に、視界を覆う七色の光。祭りが終わった後、私は絶望した。想いも、それに至る過程も、何も伝えられない。放課後の部室、そして自分の部屋で私は一人涙を流した。


「「なんで……、私は全部話したいのに……。なにも分からない。結局、私は一人なんだ…………」」


 彼が家に帰った後、ひたすら泣きながらベッドにしがみついていた。もうきっと……、私は孤独なままなんだろう。心の内を全て話せるような大切な存在なんて、馬鹿な自分の妄想でしかない。一人流す涙の中で、全てを失った気がした。


「「どうして……、なんであの光は……、私のことを邪魔するの………?」」


 原因不明の理不尽な光に、私はもがき苦しみ続けた。苦しみ続けて疲れ果て、私は静かに目を閉じようとしていた。……しかし、そこで概念を覆す着信音が鳴り響く。着信は、一条俊からだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る