第44話 顧問やろうよ!

「ええっ! 隷属部、廃部になっちゃうの!? せっかく面白い部活ができたと思ってたのに! それを潰しちゃうなんてもったいなさすぎない!?」


 さっきと同じ説明のはずなのに、全く真逆のハイテンションな反応を見せるゆりか先生。これは……、いけるかもしれない。遥が振り向くと、隷属部の確信の視線が一点に集まる。そしてそのまま数秒経つと俺達の部長は再び前を向き、今回の目標達成のためにゆっくりと口を開いた。


「隷属部は今顧問と副顧問の先生を探しているんです。顧問になってくれなくても構いません。でもどうか顧問探しに協力していただけないでしょうか?」


「協力だけでいいなんて……。水蓮寺さん、そんな水臭いこと言わないでよ。私は、あなた達みたいな部活動を待っていたの。例え、生徒会から圧力を掛けられようが、自分達がやりたいことをするために行動するなんてとても素敵なことじゃない。私、やるわ。隷属部の副顧問はこの佐渡さわたりゆりかに任せてちょうだい!! ……あと、顧問についてはそこに適任の先生がいるからその人に任せたらいいわ」


 ゆりか先生は職員室の扉の側に元気なくひっそりと佇む同僚を指さすと、悪戯そうに微笑む。その瞬間、野坂先生は再びゆりか先生の元へとびかかっていた。


「ゆりか! なんで私が勝手に顧問に決まっているんだ! お前が隷属部に興味があるのなら、自分自身で顧問を引き受ければいいだろう!? それに私は、水蓮寺の誘いをきっぱりと断って………」


「はいはい、そんな頭の硬い正論はもう十分よ。千絵ちゃん、私たちはもう子供じゃないのよ。立派な大人、しかも生徒を導く先生なんだからそんな風にいじけてるだけじゃダメなの。頑張ろうとしてる生徒を応援してこそ、千絵ちゃんの目指してる立派な教師になれるんじゃないの?」


「それは……、そうだが……。でも私は教師になったばっかりだし……、いきなり部活動の顧問なんてできるわけ……、ない……」


 第一印象のかっこよさは消え去って、今の野坂先生は桐葉と同じように目に涙をためて、すっかり弱気になっていた。しかしゆりか先生はそこで見捨てることはせずに、穏やかな優しい笑顔を向けて親友に寄り添う。二人の近い距離感は長年の友情を周囲に振りまいていた。


「やる前からあきらめちゃダメだよ。私、千絵ちゃんなら絶対できると信じてる。………まぁ、これ以上言っても無理だと思うなら、それはしょうがないよ。私も鬼じゃないから、その時は他の先生を当たってみる」


「……ゆりか。やはり私は、顧問をするにはまだ能力が足りていないようだ。だから、今回は期待に応えられない形になってしまってすまない」


「分かった。本人が無理だと思うなら仕方ないよ。断ったからって、ぐちぐち言ったりなんかしないわ。ただ………」


「ただ………、なんだ………?」


 包容力のある柔らかな喋りから、急に元気が無くなったことで野坂先生は心配そうに問いかける。そして、ゆりか先生はその心配を裏切るように悪戯っぽい笑みを浮かべ直していた。


「顧問を断るって言っても、職員室中に千絵ちゃんの激かわエピソードが披露されるだけだから心配なんかしないで。あぁ~~、どれから話そっかな〜。持ちネタがたくさんあるから、何から話すか迷っちゃうよ〜〜〜!」


「やめて! それだけは、それだけはやめてくれええええええ! 分かった、やる、やるから。だから、私の黒歴史を暴露するのだけはやめてくれ!!」


「ん〜? どうしてもやりたいっていうなら、隷属部の顧問にしてあげてもいいよ? でも、さっきあんなに渋ってたし、千絵ちゃんそこまでやる気はないよね〜?」


「あります! 私、隷属部の顧問になりたいです! だから、どうか他の教師に言うのだけは……」


「分かった、分かった。じゃ、これからよろしくお願いしますね! 野坂先生っ!」


「うぅ……、この悪魔め………」


 無事に顧問と副顧問が決まり大喜びするゆりか先生と、力無くひざまずいてひっそりと涙を拭う野坂先生。正反対の二人にどう反応すればいいか分からない隷属部の面々は、しばらくの間、ほろ苦い笑みを浮かべた。

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