第42話 激渋りな野坂先生
「失礼しまーーすっ! 2年3組の水蓮寺遥です。野坂先生はいらっしゃるでしょうか?」
部室から歩いて数分。本校舎2階の職員室に我らが部長の威勢の良い声が響き渡った。幸い、まだ放課後の掃除やら部活動やらで中にいる先生はごく僅かだったが、それでも俺と悠斗は恥ずかしさと申し訳なさでとても顔を覗かせることはできず、ただ職員室の出入り口から逆方向の廊下の様子に目を向ける。そして待つこと数秒で、背後から椅子のキャスターの乾いた回転音と力強く踏みしめたスニーカーの高い摩擦音が聞こえた。
「おい、水蓮寺。恥ずかしげもなく大勢の前で相当な声を張り上げているが、今日は一体どうしたんだ? 私には、なんの心当たりも無いんだが………」
振り向くと、遥と桐葉の前にはジャージに身を包んだ短髪褐色の美女が姿を現していた。世にいうボーイッシュキャラの特徴をまとめて一つに固めたような彼女は、俺たち全員の姿に目を移しながら、疑心暗鬼を表したかのような表情で尋ねた。
「野坂先生。今日の私はただの水蓮寺遥ではありません。今日は隷属部部長として、先生に大切なお願いをしに来たんです」
「隷属部……! そうか、話は聞いてるぞ。このテスト期間真っただ中に生徒会が本気で潰しにかかっているらしいな。ちょっと前の解放祭じゃ、協力してたっていうのにお前たちは生徒会にどんなことをしでかしたんだ?」
「私達はなにもしてませんよ! でも、生徒会は隷属部のことを無理矢理廃部にしようとしてるんです。隷属部は、部活動としての基準を満たしてないってケチをつけて……」
感情が一気に昂ったのか、野坂先生と遥の会話に突然桐葉が乱入する。言葉の終わりは怒りと悲しみに震えて、俺達の状況の深刻さをありありと映し出していた。
「……すまない、お前たちを疑ったわけじゃないんだ。それで、廃部になりかけた隷属部が私に一体何の用なんだ?」
先生は涙目になった桐葉に駆け寄ってそっと肩に手を置くと、さっきまでより優しい口調で話を本題に戻す。そこで遥は待ってましたと言うばかりに先生の背後に忍び寄ると、息を吹きかけるようなか細い声でつぶやいた。
「実は、顧問の先生を探してまして……、ぜひ野坂先生にお願いしたいんです。もう、ほとんどの先生を当たったんですけど、誰も取り合ってくれなくて……。先生が最後の希望なんです」
「なるほど……、そんなに困っていたんだな。そこまで深刻だったとは全く思っていなかった。それなら力を貸してやりたいが……」
野坂先生はそのクールな顔立ちを更にキリッとさせながら、悩ましそうに口に手を当てる。その様子を見て遥は早くも価値を確信した誇らしげな表情を浮かべ、顧問の先生は決まったかに思えた……。思えたのだが……。
「うん。普通にやりたくない。すまないが、他を当たってくれ」
何の揺らぎもない冷淡な返答。遥の表情は一瞬前とは正反対に、絶望一色へと変化していた。
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