第34話 打ち明けたい娘たち

「今日は、一条に相談してみよう……。イベント会議後はまた疲れてるかもしれないけど、今日はアイツに打ち明けてみせる……」


 ただならない言葉をつぶやきながら、私は通学路を歩いていた。一歩一歩、アスファルトを足で踏みしめる度に緊張と期待が重なっていく。大丈夫、きっと大丈夫だ。私は一度立ち止まって荒れてもいない呼吸と心を整えた。


 相談。普通の人間なら悩み事があれば、家族や友達と共有し話し合って解決方法を導いていく。でも私にはそれが許されていなかった。こんな不可解な、しかも実生活に影響がでるような出来事を一人で抱え込んだままでいたいなんて思うわけがない。家族でも、知り合いでも、もはや知らない人でもこの悩みが共有できるのなら早く喋りたかった。……でも、それはできなかった。ママやクラスメイト、先生……、私が自分に起きていることを説明しようと声を掛けた瞬間に私はその直前の世界に巻き戻された。何度も何度も、自分の秘密を暴露する直前の緊張の世界へ。だから、凄くもどかしい。この気持ちを伝えられる人がいたらどんなに嬉しいんだろうと何万回も考えた。そして、唯一伝えられる可能性を秘めた人を見つけて……。


「どうしよう……。本当にこれが上手くいかなかったら、しばらくへこんじゃうかも…………」


 長い思考の果てに私は大きくため息をつく。すると、それに反応したように自分の右腕が斜め後ろから強く引き寄せられた。


「遥さーーんっ! 登校中に何をそんなに悩んでるんですか? 朝からため息つかずに元気よくいきましょうよ!」


 腕が引っ張られた先に顔を向けると太陽のような明るさの桐葉ちゃんがいた。私が生気を失ってる分を補充してくれているのか、桐葉ちゃんはショートヘアーを少し乱しながら私の手を握ってぶんぶんと振り回す。まだ会って数回目だけどこの子は本当にいい子だなぁ……。人の温かい心に触れて数秒で私はすっかり感動していた。


「えっとね……、今日イベント会議があるでしょ? それが上手くいくか心配で、失敗したらどうしようって悩んでたの」


「へぇ~~。遥さんも心配になることなんてあるんですね。でも、分かります。私もイベント会議って何をするんだろうってドキドキしてますし。でも……、きっと大丈夫ですよ! なんていったって、遥さんは私達隷属部の頼れる部長なんですから!!」


「桐葉ちゃん……。ありがとう、私元気が出たわ……」


 なんて素晴らしい後輩なんだ。感動につぐ感動で私は登校中だというのに号泣しそうになる。そんな私を見て桐葉ちゃんは安心したように優しく微笑みながら顔を近づけて、軽く桜色に染まった頬を動かした。


「遥さん、頑張りましょうね……。私達は同じ立場なんですから、できる限り支え合っていきましょう。悩みが共有できなくて、辛くて辛くて、落ち込んでいても私は遥さんの後輩です。いつでも遥さんのことを応援してますよ………」


「桐葉ちゃん……? それって……、それって今の私のこと………」


「え? なんですか!? あぁ! そんなことより遥さん、あと5分で8時30分ですよ。ほら、遅刻しないように早くいきましょう! 急げ、急げ~~!!」


 桐葉ちゃんは私の腕を掴んだまま、校門へと駆け出していく。私は想いの詰まった 後輩の綺麗な頬に思いを馳せて、自分の深い悩みもすっかり消え去っていた。

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