第28話 揺れる放課後に

「遥……、遥、遥!」


 微かに視界が開けたかと思うとその瞬間に肩を揺さぶられているのを感じた。現れた目の前の景色と何度も見た悠斗の険しい顔が揺れ続ける。あの後、何が起きたのか全く分からないけど、私は初めて放課後の教室という空間に到達していた。


「なに……? なんで、私はアンタとこんなところにいるの……?」


 ……アンタ? 口を開くと元々の自分の口調とは違った言い回しで質問してしまう。しかし、悠斗は少し偉ぶるような私の言葉遣いに違和感がないみたいで安心したようにほっと息をついた。


「なにって……。遥が俺をここに呼び出したんだろ? 全く……。転校してきて自由気ままに暴れ回ったあげく俺を放課後に呼び出すなんて、一体お前は何者なんだ? しかも約束の時間に来てみたら、思いっきり倒れてたから本当に心配したぞ?」


「ご、ごめん……。私、いつの間にそんなこと………」


「いいよ、もはや遥が訳わからないことをするのに耐性ができてきたからな。……それで、今回俺を呼び出したのはどんな用事なんだ?」


「えっと……、用事、用事………」 


 何かを期待するようにじっと見つめる悠斗に気圧されて、考える仕草をしてみる。………なにも浮かばない。というか、浮かぶはずがないんだ。今日の私はいつもの私じゃなかったんだから、普通の私が考えって何も浮かぶわけがない。目を輝かせている悠斗には悪いけど、今回は謝って帰ってもらおう。私は恥ずかしさで逸らしていた目を申し訳なさの意味合いに切り替えてゆっくりと悠斗の視線に合わせた。


「あのさ……、申し訳ないんだけど……」


 途端。なんとか保たれていた視界がまるでジェットコースターに乗っている時みたいに揺れ動く。また私をどこかに引き戻すのか、それともどこかに閉じ込めるのかは知らないけど、とにかく今は自分を奪われたくはない。揺れて揺れて、でもなんとか耐え忍んだ私の口はなんの意識もなく開かれた。


「アンタ、私と一緒に部活しない? アンタとなら私、なんでも思い通りにできる気がするの! だから、やりましょう隷属部!」


 は? 何を言ってるんだ、私は!? 困惑の中でただ目の前の状況を体感することしかできない。そして悠斗は苦笑いをしながら、でもなぜか嬉しそうに軽く頬を触っていた。


「隷属部!? また、ぶっ飛んだ部活を思いつくもんだな……。でも、そうか……。俺がいればなんでもできるのか……。よしっ、やろう! 俺と遥で新しい部活を作ろうぜ!」


 突如、湧きあがった自分の意見で目の前の世界がどんどん作り変えられていく。これは確かに私が望んだこと。それを素直に嬉しいと思う前に、心に浮かんだもやもやはその時からのものだった。

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