第25話 困惑は何度でも

 教室の中には盛大な期待と歓喜の雰囲気で満ち溢れていた。さっきまで授業で静まり返っていた場所とは信じられないほどのエネルギーに私はすっかり圧倒されて足が自分の言う事を聞かなくなってしまう。すると私の肩と背中に温かい両手が添えられてそっと後ろから押し出された。そして教壇の近くまで行ったときに背後から元気な声が響いた。


「自習しているところ申し訳ないけどこっちに注目して下さ~いっ! たった今、みんなが待ちに待った転校生を連れてきましたよ! 今日から私達に二年三組の仲間になるんだから大きな拍手でお出迎えしてあげて!」


「やったーー! ゆりか先生ばんざーーーいっ!! ようこそ、二年三組へ!!」


「あの子が転校生!? めっちゃ可愛いじゃん! 名前はなんていうの!?」


 一声で更に歓迎のムードが一気に盛り上がる。後ろを振り返るとさっきよりも優しい笑顔をした担任としてのゆりか先生の姿があった。


「ほら、水蓮寺さん。みんながあなたのことを知りたがっているわ。黒板に名前を書いて自己紹介をしてあげて。さぁ、教壇に上がって上がって!」


「は……、はいっ! 分かりました!」


 私が教壇に上って震える手でチョークを取ると、転校生の自己紹介を聞き洩らさないように集中しているのか再びクラスが静寂に包まれた。みんなが見てる…………、背中では後ろからの視線は見えないのに突き刺さるような感覚で私は呼吸が乱れていた。大丈夫、みんなが見てるのは私に興味を持ってくれているから。みんなは私の敵じゃない。そう言い聞かせながら私は自分の名前を一画一画丁寧に書いていく。そして水蓮寺遥の四文字が大きく黒板に刻まれた時、クラスは再び沸き上がるように活気づいた。


「えっと………。水蓮寺……、遥といいます……。これからよろしくお願いします」


 言葉を絞り出して必死の思いで頭を下げると、割れるような拍手が頭に鳴り響いた。勇気を出したからみんなが嬉しそうに笑ってる。それだけで心が溶けそうなほど幸せだった。そして、私が無事に紹介を終えるとゆりか先生も拍手をしながら教壇に上がってきた。


「じゃあ水蓮寺さんの席だけど……、あそこの窓際に空いてる席があるからそこに座ってもらってもいい? はい! じゃあ、みんな一旦今は授業だからもう一回集中しなおそうね!」


 先生が切り替えるように手を叩くと、クラスはまた真面目に勉強を始めた。私は邪魔にならないようにそっと歩いて自分の席に向かう。すると…………、


「え……、あなたはさっきの…………」


「やっぱりさっきの子か。まさか、俺と同じクラスで隣の席になるなんて……。俺は上代悠斗。これからよろしく、遥!」


「う……、うん…………。よろしくね……」


 嘘だ。信じられない。こんなことが現実に起こるなんて……。ただでさえふわふわとしていた私の感情は一気に崩れて今にもとろけ出しそうになっていた。そして、悠斗はそんな私を見て笑う。二つ目のトリガーが発動したのはその瞬間のことだった。

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