第24話 自己紹介に向かう足取り2
中に入ると授業の真っ最中だったらしく廊下には誰もいなくて静まり返っていた。私はいきなり遅刻したのがまだ申し訳なくて教室の内窓から見つからないように体を縮める。すると前を歩いていた先生たちの靴音が止まった。
「なんだ、水蓮寺。そんなにビクビクしてもしょうがないだろ。遅刻したのを反省することは良いことだが、自分を責めすぎるのはダメだ。特に今日はお前にとって初めての登校なんだからな。思いっきり楽しめばいいんだ!」
「千絵ちぇ……。野坂先生の言う通りよ! 水蓮寺さん、今日はあなたの思うがままに楽しんできなさい。先生も水蓮寺さんのこと、応援してるから!」
目の前の二人の先生は私に向かって思いっきり笑って、また激励の言葉をかけてくれた。なんていい人達なんだろう……。私は朝とは違う意味で泣きそうになりながら自信を取り戻して胸を大きく張る。
「はい! 先生、本当にありがとうございます! 私、頑張ります!」
「よし、じゃあ今すぐ行ってこい! ゆりか、私は職員室に戻るぞ!」
そう言うと野坂先生は私の返事を待たずに早歩きで進み出そうとする。私は、突然ペースを上げた野坂先生の手を戸惑いながら掴んだ。
「……ちょっと、待ってください。先生は私を置いてどこに行こうとしてるんですか?」
「どこって……、水蓮寺をクラスに案内したから職員室に帰るんじゃないか。私もずっとお前についていられるほど暇じゃないからな。じゃ、もう行っていいか?」
「え? ここが私のクラスなんですか?」
「ああ、そうだぞ? ゆりか、ここで合ってるよな?」
「水蓮寺さんのクラスは……。うん、2年3組で合ってるわ。水蓮寺さん、急に顔真っ赤にしてどうしたの? もしかして緊張しちゃった? ダメよ、ちゃんと力抜いていかないと~~」
私は顔に熱を感じながら恐る恐る顔を上げる。頭上には2-3と書かれた札が高々と掲げられていた。ここが……、これから私が過ごす場所……。自分はここで理想の自分に生まれ変わる。そんなことができるのかな……? 目の前に現れたこの空間に自分の居場所はあるのかな……。考えれば考えるほど自分の身体が硬直して震えが止まらなくなる。しかし、次の瞬間野坂先生のジャージの袖を握っていたはずの私の腕が握り返されて私は教室の扉へと引っ張られていた。
「そんなに、考えておびえてたってなにも変わらないだろ? ここでお前が上手くやるかは全部お前次第だ。今までの自分を変えたいなら私達も協力してやる。だから、最初から逃げるんじゃない!」
強い口調で私に問いかけると涙の粒が頬を滑り落ちていくのを感じた。すると野坂先生は私の腕から手を離し、再び優しい笑顔を見せるとそっと指で涙をぬぐって、
「いいか、水蓮寺。ここではお前がなりたい自分をどんどん出していくんだ。私達を含めたこの学校の全員が頑張るお前を応援してる。さあ、行ってこい。ここがお前の新しいクラスだ……!」
扉が開かれると光とともに中から大きな歓声が響き渡るのが聞こえる。私は手を胸に置き直すと自分から教室の中へと足を踏み入れた。
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