第26話 光の少女
「ほら、水蓮寺さん。みんながあなたのことを知りたがっているわ。黒板に名前を書いて自己紹介をしてあげて。さぁ、教壇に上がって上がって!」
……もう、何度目なんだろう。教壇の上に乗りながら私の心は折れかけていた。何回、何十回、いや何百回も自己紹介をしていつも教室に入る手前に逆戻りする。こんなに疲弊した心でまともな判断なんてものは遥か昔に出来なくなっていた。自己紹介をする前に逃げ出したり、もう立つのも嫌になってその場に座り込んでもそこから巻き戻される。嫌になることが嫌になってこの流れから抜け出そうとしても悠斗の目の前で光に包まれて、初めからやり直し。今の私はもはや考えることもやめてただ自分の紹介をし続けるだけの冷たい機械になっていた。
「水蓮寺、遥です……。みんな、よろしく……、お願いします………」
怯えることもなくなり、ただ無感情で自己紹介を終える。そして自分の席を案内され、悠斗のいつもの笑顔。そこから溢れる光に驚くこともなく私はじっと悠斗の顔を見ていた。
そして、私は光の中に包まれ、また教室の前に戻される。そう思っていたその時だった。
何度も見た色彩豊かな強い光は、いつものように元の場所に下ろすことはしなかった。強い意志を失い、再び闇の世界へと進んでいた自分を引き戻す反対の力が私を実体のない白い床に押さえつけるように光は収束し、一つの影を作り出す。その正体がなんなのかは今になっても分からない。しかし影を捉える視覚からはそれが私と同じくらいの少女のように見えていた。
「アンタねぇ……。何度もやり直すのは結構なんだけど、いい加減学んだらどうなの? せっかくヒントとチャンスを与えてあげてるのに、なんにも成長しないじゃない!」
影は床に転がった私を見下ろしながら、自分と同じ声を使って怒り続ける。私はもっともな意見に心が痛くなる。そしてまた涙が頬を伝っていくのを感じた。
「また、繰り返すつもりなのね……。今までと同じだとダメだって何回も経験して、後悔してきたはずなのに。アンタはそれを繰り返すだけ。そんなのを干渉せずに永遠に見てるなんて、面白くもなんともないわ……」
少女は見えない顔を近づけながら、私の涙を雑に拭き取る。そしてそのまま涙で濡れた手を口元に近づけると影が薄れるほどの強い光が溢れ、逆再生で涙が瞳に戻るように目の中を満たしていった。
『いい? これから私が見せるのは、アンタが望む理想に近い形。それは理想とは少しは違うかもしれないけど、今のアンタに任せるよりも全然マシだわ。どこが悪いのか学んで、それから自分を成長させなさい。それから先はアンタに任せることにするわ……』
他の全ての感覚がなくなる中で最後に響いたのは鼓膜の振動だった。良かった、とりあえずこれで休めるんだ。私は安心から深く眠りにつく。目を閉じて、最後の振動を聴き終えた時あたりは真っ暗になっていた。
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