第6話 久々の帰宅

「ただいまーー。桐葉、今帰ったぞ」


 水蓮寺が生徒会に宣戦布告してから数十分後、俺は無事に家に辿り着いていた。記憶の中では解放祭の朝ぶりだから随分久しぶりな帰宅になる。まあ、仮の俺はちゃんと家に帰っていたことだしそこまで大げさなことではないか。そう思って靴をゆっくり脱いでいると、


「おにいだよね……? 帰って来たの? やっと……、帰ってきてくれたんだ……。私が、どれだけ心配したか……。分かってる……? 私不安で、怖くてしょうがなくて…………」


 桐葉はやつれた表情で廊下に崩れ落ちる。心配と不安とで疲れ切った少女の顔には安堵と共に涙がこぼれていた。


「どうしたんだ、桐葉? 俺自体は今日までちゃんと毎日帰ってたんだろ? なんでそんなに俺のことを心配してるんだよ?」


「なんでって……、今日帰ってくる前までのおにいはおにいじゃなかったからでしょ……? 私にとって、おにいは大切な家族なんだから……。本当のおにいかそうじゃないかなんてわかるに決まってるよ」


 確かに桐葉は俺にとって大切な家族だ。だが、今回の件はそんなことで説明できるのだろうか? そんな疑問のかけらが頭をよぎるが、それを抹消するかのように桐葉は俺の胸の中に抱き着いてきた。


「おにいだ……。もう、会えないのかと思ってた。私にとって大切なおにいとまた会えるなんて嬉しい。帰ってきてくれて本当に良かった……」


「寂しくさせてごめんな。まあ、とりあえず上がらせてくれ。今日も色々と起こりすぎて物凄く疲れてるんだ……」


「うん……。あ……、だめ……。私だけでずっといたから……。えっとその……」


 桐葉もすっかり疲れているのか自信と元気が喪失したかのようなか細い声で俺に声を掛けようとする。まずはリビングに行ってゆっくりとソファでくつろぎながら桐葉の話を聞くことにしよう。それでその後に隷属部のことを丁寧に説明すればいい。そんな風に頭を整理していたが、それを一気に崩壊させるほどの衝撃がリビングに入った瞬間に襲ってきた。


「桐葉、これは一体どういう状況だ……?」


「これは……、私がやったんです。でも、わざとじゃなくて気が付いたらこうなっていたというか……」


 俺の目の前には一体いつから掃除をしてないのかと指摘したくなるほどの荒れ果てた部屋が広がっていた。解放祭からもまだそこまで時間が経っていないのにここまで物が散らかっているのはもはや事件性を感じさせる。いつもは完璧に掃除してくれる桐葉だけにこんなに部屋が汚れてしまった理由が気になるが、ここは心配をかけたばかりの義兄として優しく受け止めるべきだろう。俺は呆然と開けっぴろげになっていた口をなんとか引き締めて笑顔を作った。


「ま、まぁたまにはこんな時もあるさ。桐葉も解放祭が終わってから疲れてたんだな。今日は二人でゆっくり片付けよう」


「うん……。ごめんなさい。私じゃ何にも役に立てなくて…………」


 また申し訳なさそうにがっくりと項垂れる桐葉。俺はそんな義妹に何と声をかけて良いのか分からないまま、黙って制服の袖をまくった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る