第75話 義妹がエグすぎる3

「「「いっただっきまーーーす!」」」


 開始の合図と同時に一品目の担当者が勢いよく手を合わせる。最初の料理はわんこそばだ。一つ目で麺類ということもあって一見簡単そうに見えるが、予行練習で地獄を見た俺にはそばのきつさが分かる。初めのうちは汁と一緒にスムーズにかきこめてもものの十数分のうちに胃に汁が溜まり、麺は膨れて一気に満腹中枢と胃痛を感じさせるのだ。特にこんな早食いの要素も入った対決だとその現象が更にエスカレートする。つまり、制限時間十分のうちに食べられるそばの杯数はせいぜい百杯を越えるか超えないか…………。と、俺が後ろから目測を立てていると、


「おおーーっと、一条桐葉選手早くも二百杯に迫る勢いだーー! まだまだペースは衰えないっ! 一体何杯食べるつもりなのかーーっ!」


 まだ制限時間の半分も経過していないというのに桐葉の横には今にも崩れそうなほど高層にお椀が積み上げられていた。他の代表者と比べても明らかに食べるペースが抜きんでている。明らかに異常だ。異常だが……。


「あいつ……、あんなペースで食べて最後まで持つのか……?」


「アンタ、桐葉ちゃんのこと全く信じていないのね。というか桐葉ちゃんのことを全く知らなすぎよ。あの子は本当に凄いんだから……」


 腕を組んで雰囲気たっぷりに頷く水蓮寺。お前はなんで兄よりも桐葉のことを知っているのかと突っ込みたくなったが、そんなことよりも桐葉の早すぎる麺の啜りに俺は目を奪われていた。そして更に五分が経過すると……、


「ではここで第一食目が終了いたしました。……一食目の優勝者は389杯、約3.9キログラムで一条桐葉さんです! 二位との差はなんと150杯! まさに圧倒的な差をつけています! しかし役員チームは三種目を一人で行う前代未聞の個人軍です。このままリードを保つことができるのか……? 続いては第二食目、ホットドッグの大食い対決を開始いたしますっ!」


「うわーーい! やったー! ホットドッグだーーーっ!」


 第一食目が終わった途端にテーブルには大量のホットドッグの山が積み上げられた。ホットドッグは桐葉にとっての大好物、先ほどまでの対決がなかったかのように桐葉は涎を垂らしながら目を輝かせている。……うん、おそらく大丈夫だろう。どうせ桐葉は第二食目でも圧勝するので俺は一回トイレに向かうことにした。そしてそれから十五分後……。


「おおーーっとーー⁉ 一条桐葉選手ここで止まってしまったーー! 第3食目でとうとう限界に達してしまったのでしょうか⁉」


「噓でしょ⁉ 桐葉ちゃん、嘘だって言ってよ! ねえ、桐葉ちゃん!」


 車いすでの移動に手間取ったせいで俺がしばらく姿を消していた間に対決は思いもよらぬ方向へ進んでいたようだ。信じられない内容のアナウンスと水蓮寺の悲痛な叫び声を聞いて俺は足を引きづりながらも舞台袖へと急いで歩く。すると少し目を潤ませる水蓮寺の姿が目に飛び込んできた。


「一条! アンタ今までどこでなにやってたの! 桐葉ちゃんが……、桐葉ちゃんが……」


水蓮寺が震える指で指す先を見た瞬間俺は唖然とする。スプーンを持ったまま硬直した桐葉とそれを嘲笑う大男。……一体何が起きたんだ? 大食いレースは山場を迎えていた。

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