第74話 義妹がエグすぎる2
「では、二人共! 私がチームを勝利に導いてみせます!」
「頑張って! 私達も陰から応援してるから! 桐葉ちゃんならできるよ!」
開始直前の舞台袖で熱いやり取りをするように見える二人だが、事情を知っている俺からすれば明らかな押し付けが行われているようにしか見えない。だが、水蓮寺と俺は同じ立場の人間だ。何も口を出す権利もないし、メリットもない。俺はただ大きく手を振ってステージに向かう桐葉に軽く会釈をすることしかできなかった。
「それでは、午後のメイン競技大食いリレー対決を開始したいと思います! 今回は1,2,3年生代表と解放祭役員の4チーム、12人がそれぞれ20分以内にどれだけの量を食べられるかという対決で……。えーっと……、役員チームの代表者が一人しかステージに上がってきていないのですが後の二人はまだ到着していないのでしょうか……?」
一人で上がってきた桐葉に司会を務める放送委員は困惑する。すると桐葉は晴れ渡るような満面の笑みで、
「いいえ! 到着はしてますよ。ただ、私がそばもホットドッグもカレーも全部食べたいと言ったら二人が譲ってくれたんです。だから2人の分までこの一条桐葉、頑張っちゃいますよ!」
「……ということは、役員チームは一条桐葉さん一人で大食いリレーを行うということでしょうか?」
「はい! そうですよ!」
桐葉が威勢よく答えると会場からは困惑するような囁き声とブーイングが響き渡る。特にステージ上の参加者たちは桐葉をきつい表情で睨みつけていた。そんな中でも全く笑顔を崩さない桐葉はどれだけメンタルが強いんだろうか? 俺が疑問に思っていると参加者の中でも一番の体格を誇る大男が桐葉に近づいていった。
「お前、本気で一人でやるとか言ってるのか? ただ冗談を言ってるだけならさっさと撤回したほうが身のためだぞ?」
「冗談? そんなわけないじゃないですか。私が一人で参加するのは本当ですし、なんなら優勝する予定ですよ?」
「……どうやら俺達はとことん舐められてるようだな。一条桐葉、お前もう一度よーーく周りを見返してみろよ。お前以外の参加者は全員男子、それも各学年から選ばれれた実力者なんだぞ? お前みたいなヒョロヒョロな女子一人が相手になるわけないだろう?」
大男が馬鹿にするように煽ると、他の参加者も同調するように高らかに笑い声をあげた。観客も冷たいヤジでそれに続き、ステージは完全にアウェーな雰囲気になっていた。さっきまで笑顔だった桐葉もうつむいて両手を固く握りしめている。桐葉のやつ、あんなことされて大丈夫なんだろうか? 俺が義妹を心配して舞台袖から出ようとすると、
「相手にならない? そんなのやってもないのに分かるわけないでしょう。というか女子相手に大勢で圧力をかけてくる人たちのどこが選ばれた実力者なんですか? 頭が固くて口だけ達者な臆病者の間違いなんじゃないですかぁ?」
「この野郎……、黙って聞いてりゃ舐めた口ききやがって……。そこまで言うなら徹底的に叩き潰してやる。泣いて謝っても絶対許さないからな!」
「良いでしょう……。圧倒的な実力の差ってものを見せてやりますよ……」
二人が互いを煽り合ってそれぞれの席につくと会場は独特の盛り上がりを見せた。どうやら俺の義妹は涙ではなく闘争心が溢れて武者震いしていたらしい。俺は心配したことを後悔して薄いため息をつく。その間にけたたましいブザー音が鳴り響き世紀の対決が幕を開けた。
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