第71話 真面目なお話
「よお……、お前の代役完璧に務めて来たぜ……。何だよ、俺がここまでもてはやされるのがそんなに嫌なのか? 一条がそんなに嫉妬深いとは意外なもんだ」
レース後の興奮状態でテントに入ってきた悠斗は俺の真顔に意外な様子で問いかける。俺は悠斗を自分の横に座らせると、
「……お前、水蓮寺に何かしたのか?」
「は? 俺が遥に何かした? 何かされたの間違いじゃないのか?」
「いや……、水蓮寺の様子がいつもと違ったんだ。それもおそらくお前が原因だと……」
俺が状況を説明しても悠斗は首を傾げるだけで真剣に聞いてもくれない。俺は改めて悠斗の間近に近づき、そっと囁きかける。
「俺とお前は中高4年間の仲だ。何かあるのか無いのかはっきり言ってくれ。それとも俺とはもう真面目に話せなくなったのか?」
「いいや……、俺は親友に隠し事をするほどクズな奴じゃない。現に気になる人のことも部活のこともお前には全部話してるからな。俺と遥はお前が言うような何かがあったわけじゃない。信じてくれ……、一条」
真面目に話す悠斗の目は、久しぶりに見る親友のものに違いなかった。嘘はついていないのか……。こいつとは長い付き合いだから分かる。でもそれなら水蓮寺は……。ますます深い疑問に襲われる。そんな俺に悠斗は続けて静かに打ち明ける。
「あと、一つ真面目な話なんだが……。俺、早希さんに呼び出されてるんだ。解放祭が終わった後、二人で会えないかって……」
「……そうか、悠斗はもし先輩から告白されたらどうするんだ?」
「まだ告白されると決まったわけじゃないし、もしそうじゃなかった時が怖いからそこまで考えてはない。……今はただ信じられなくてドキドキしてるだけだ」
知っていても感じる嫉妬と劣等感。そしてそれを破壊しに向かう自分の愚かさに俺は顔を歪めることしかできない。悠斗は不安げに俺を見つめながら、
「どうしたんだ? そんな暗い顔して。一条、お前の方こそ俺に隠してることがあるんじゃないか?」
「いや、無い。俺もお前には嘘はつきたくないし、何のメリットも無いからな。ただ先輩がお前を誘ったことに驚いてるだけだ」
「……そうか。そうだよな、俺とお前で嘘をつくことなんてあるわけがないんだ。ごめんな、俺舞い上がって調子乱れてるのかもしれないわ」
自分で耳を塞ぎたくなるほどの醜い嘘。悠斗には全てを打ち明けるように迫っているのに自分は平気で嘘をつく。俺は最低最悪な人間だ。悠斗が目の前で安堵する中、俺はただ自己嫌悪に走るしかなかった。
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